【税制改正 2024年】マンションの相続税評価の改正に伴い節税対策への影響とは?
目次
皆さんは「高層マンションによる相続税の節税対策」という言葉を聞いたことがないでしょうか。
この手法は富裕層にとってはポピュラーな相続税の節税対策として知られていて、それに群がる関連業者も多く見られました。
しかし、そんな節税対策に楔を打ち込む第一弾として、マンションの相続税評価の見直しが行われたので、本記事ではその内容と考えられる影響について解説します。
マンションの相続税評価改正の背景にある節税対策
今回マンションの相続税評価が改正されて適用されるのは、2024年(令和6年)1月1日以降に発生する相続(若しくは贈与)に対してです。
一見すると唐突な印象を受けますが、この方針は2022年に決定された「令和5年度与党税制改正大綱」で示されており、国税庁側としてはやる気満々だったのでしょう。
そこで、マンションを使った節税対策のテクニックの中身と、それに対する国税庁の対策を考えてみることにしましょう。
そもそもマンションを使った節税対策とはなんなのか
相続税に批判的な意見としては「所得税を支払ったあとの財産に課税するとはけしからん」というものがありますが、ごもっともな意見だとしても国(財務省)は巻き上げることしか考えていません。
日本の相続税は、国際的にみても高いといわれており最高税率は55%にもなり、優遇措置の少なさから「3代で財産がなくなる」と揶揄されるくらいです。
そのような中、近年注目されていたのが「マンションを使った節税対策」で、これは相続税の課税基礎になる財産の評価額の差を狙った対策でした。
被相続人(亡くなった方)の死亡に伴い開始される相続ですが、課税される財産は現預金を除いて一定の評価方法が定められています。
現預金であれば評価するまでもなく残高が課税対象となりますが、マンションには特殊な事情がありました。
例えば時価1億円のマンションを買ったとして、相続時の評価を考えるとその60%以下の評価額となるのが一般的でした。
つまり現金で相続するよりかなり安い評価で譲り渡すことができ、富裕層と言われる人たちにとっては定番の相続税対策となっていたのです。
そのような高級マンションを買えない庶民にとっては別世界の話ですが、国税庁はこの点を問題視しました。
マンション価格の高騰と国税庁が問題視する「乖離率」
国税庁が発表している資料を見ると、「マンションについては、相続税評価額と市場売買価格(時価)とが大きく乖離しているケースも把握されている。」と書かれています。
要約すれば、この乖離を利用して相続税逃れをしている富裕層は許しがたいということで、これに続いて「令和4年4月の最高裁判決(国側勝訴)以降、マンションの評価額の乖離に対する批判の高まり」と言及されています。
では、この令和4年4月の最高裁判決とは一体何なのでしょうか?
2022年4月19日、最高裁判所第3小法廷で出された判決は、相続等により取得した財産の価額は「当該財産の取得の時における時価(客観的な交換価値)」によるものとされた判決で、金持ちによる相続税逃れに警鐘を鳴らすものでした。
この判決に勢いを得た国税当局がマンションの相続税評価を変えたのが、2024年1月1日以降に適用される今回の改正です。
マンションの相続税評価の改正内容とその影響
ここまでの流れを見ていれば、国税当局が相続税の基礎となるマンションの相続税評価を上げただろうことは想像がつくでしょう。
簡単に言えば「実勢価格に少しでも近づけたい」という改正で、特にタワマンといわれる高層マンションのオーナーへの影響が大きい改正内容です。
ここからは今回の改正内容の概略と、及ぼす影響について考えてみましょう。
平成5年12月31日までの評価方法
これまでの評価方法は、土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価額で計算されていましたが、改正後も基本は一緒です。
ここで問題視されたのは、従来の評価方法では一時ブームだったタワーマンションの評価が一戸建て住宅と比べて著しく低い評価になることでした。
これに対して国税当局が言い出したのが「現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」ということです(引用:国税庁「マンションの相続税評価について」)
改正された新たな評価方法
2024年1月1日以降に開始される相続では、マンションについて新しい評価方法が導入され、それは実勢価格を反映する「評価乖離率」の導入です。
具体的には以下の方法で算出した評価乖離率が、「1.67」以上ならば、「現行の相続税評価額×評価乖離率×0.6」で新しい相続税評価額が求められます。
「A」=築年数×△0.033
「B」=総階数指数(総階数を33で除した値)×0.239
「C」=対象専有部分の所在階×0.018
「D」=敷地持分狭小度(敷地利用権の面積を専有部分の面積除した値)×△1.195
小数点以下を切り捨て、上記の「A」から「D」を足した数値が評価乖離率となります。
つまり相続税評価額が時価とかけ離れている物件に関しては、評価を時価の60%程度に引き上げる改正で、数式を見れば築年数が浅く総階数が多い物件ほど相続税評価額が高くなることが分かるでしょう。
ただ、この改正対象は区分所有者が存する家屋で、居住の用に供する専有部分を指しますが「地下階を除く階数が2階以下の低層区分マンション」「区分所有のオフィスや店舗」「区分登記された二世帯住宅」は含まれません。
簡単にいえば「タワーマンション節税」を狙い撃ちにした改正で、やはり令和4年4月の最高裁判決が国税当局に勢いを与えたことが分かります。
評価方法の改正によって考えられる影響
マンションの相続税評価が改正されたことで、築年数の浅いタワマンの評価額は大きく上がり、都心マンションの20階以上の高層階で築浅だと、相続税評価額の増加率は2倍ほどになると試算されています。
では、この改正でタワマン節税が無くなるかといえば決してそうでもなく、この程度であれば区分所有マンションによる節税効果は十分にあるといえるでしょう。
ただ、ランニングコストが高く利回りの低い物件については、快晴の影響で値下がりすることも考えられるので、相続税対策だけではなく経済的合理性も考えることが必要です。
また、タワマン節税の効果が縮小したことから、これまで以上に生前贈与を早めに開始することも重要な選択肢といえます。
少しでも財産を多く残したいという気持ちと、国税当局とのイタチごっこのようですが。考えることが多くなったことだけは確かです。
相続税対策は事前の準備が不可欠です
財産を多く持っていることは大いに結構なことですが、相続税のことを考えれば心配事が尽きないものです。
大事な家族に少しでも多くの財産を残したいというのは自然な感情ですし、それを確かなものとするためには早めの対策が欠かせません。
やり方を誤ると被害の大きな相続税対策なので、税理士などの専門家へ早めの相談をすることがオススメです。
生前贈与を含めた複合的な対策が、あなたの希望を叶えるための第一歩となります。
まとめ
国税当局による相続税のタワマン節税を防ぐための改正ですが、もう始まってしまっていることなので、すでに節税対策としてマンションを購入している方も再検討が必要です。
まだ節税対策として有効だとはいえ、国税当局へ勇気を与えた判例を考えれば、もう一歩踏み込んだ対策が必要かもしれません。
その点を踏まえてみると、信頼できる税理士探しも大いに有効な手段だといえるでしょう。
本記事を参考にして、後悔の対策を打つことをオススメします。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
最近の投稿
- 2024.06.24
- 無申告で税務調査が入ったらどうなる?立ち合いを税理士に依頼すべきか、メリットを解説。
- 2024.06.20
- 【事業者必見】インボイスを税理士に相談・依頼するメリット5選!
- 2024.05.24
- 【税制改正 2024年】マンションの相続税評価の改正に伴い節税対策への影響とは?