遺産分割協議書を自分で作成するメリット・デメリットを税理士が解説
目次
遺産分割協議書と聞くと相続に関係するものだとは分かっていても、あまり詳しく知らないのが普通です。
簡単にいえば、故人が残した財産の分け方を決めて、それを書面に残したものが遺産分割協議書で、必要になるケースもあれば必要ないケースもあります。
何か難しいイメージのある遺産分割協議書ですが、実は自分で作成することができるものです。
この記事では、遺産分割協議書の基本を押さえながら、自分で作成するメリットとデメリットを税理士が解説します。
遺産分割協議書の役割
親などの親族が亡くなったとき相続が開始されるのですが、法定相続人が1人の場合を除き遺産をどのように分けるのか決める必要があります。
このための話し合いを「遺産分割協議」といい、それを書面に残せばそれが遺産分割協議書となります。
ただ遺産分割協議書が必ず必要かといえば、実はそうではありません。
まずは遺産分割協議書の役割と、そのような場面でそれが必要になってくるのか確認してみましょう。
遺言書と遺産分割協議書
よく遺産相続をめぐるドラマなどで「遺言書」が登場しますが、遺言書とは故人が自分の残す財産を誰に譲るのか、その内容を事細かに書いたものです。
法務省が2017年(平成29年)に行った調査によれば、55歳以上の人で自筆の遺言書を書いたことがある人の割合は3.7%となっています。
死亡者数に対する相続税の課税件数が9.3%(2021年)と比べてみると、意外と少ないことが分かります。
この遺言書があった場合は、基本的には故人の遺志を尊重した相続が行われるため、遺産分割協議も行われません。
しかしありがちなのが、遺言書に書かれていなかった相続財産が後から判明するケースで、そのような場合は遺産分割協議を行う必要があり、遺産分割協議書を作成します。
また遺言書があったとしても、法定相続人で協議して全員の同意があれば、遺言書の内容に従う必要もないので、その場合も遺産分割協議書の作成が必要です。
遺産分割協議書の提出が必要な場面
相続が発生すると遺産分割協議書の提出が必要な場面がいくつかあります。とくに多いのが故人の残した不動産を特定の法定相続人が引き継ぐ場合です。
例えば親が亡くなり法定相続人が3名の子で、自宅を親の介護をし続けた1人の子が引き継ぐようなケースがこれに該当します。
相続を原因とする不動産の移転登記には、遺産分割協議書の提出が必要となりますが、この場合の遺産分割協議書には相続不動産のみ記載してあればよく、預金など他の相続財産を記載する必要はありません。
また相続税の申告が必要な場合には、相続財産の全てについて記載した遺産分割協議書の提出が必要です。
これは相続人の取得した財産の割合によって、各人に課される相続税が決まるためですが、その他にも「配偶者の税額軽減」など相続税の軽減措置を受けるためにも必要になります。
必ずしも必要ではない遺産分割協議書
凍結された故人の銀行口座は、相続人が名義変更しなければ引き出すことができなくなっています。
銀行で故人の口座の名義変更を行う場合、必ず遺産分割協議書の提出が必要なわけではありません。
もちろん遺産分割協議書があればスムーズに手続きが進むのですが、金融機関は相続人全員が、故人の預金を解約することに同意していることが確認できればそれで良いのです。
そのため一般的には、金融機関独自の書類へ相続人全員が署名することを求められます。
遺産分割協議書の作成手順
遺産分割協議書の役割が分かったところで、具体的な作成手順を説明していきますが、その難易度は相続財産の種類や額、そして相続人の状況によって大きく変わります。
ここでは遺産分割協議書の作成手順を追いながら、困難な事例についても説明を加えます。
遺言書の確認
亡くなった被相続人が遺言書を残しているのか確認するのですが、故人が公証人役場で「公正証書遺言」を残している場合は比較的簡単に調べることができます。
この場合は公証人役場の「遺言検索システム」を利用するのですが、問い合わせできるのは相続人や受遺者またはその代理人などに限られます。
公証人の前で遺言内容を記した書面に遺言者が署名・押印した「秘密証書遺言」の場合は、遺言書を作成した事実だけ確認できますが、遺言書自体は遺言者が持ち帰るため、遺言者が自分で作成した「自筆証書遺言」と同様探し出さなければなりません。
仮に秘密証書遺言や自筆証書遺言が見つかったとき、遺言書を開封してしまうと罰せられたり、改竄の疑いをかけられたりするので注意が必要です。
もし遺言書が見つかった場合は、家庭裁判所の「検認」という手続で開封して中身を確認しましょう。
また遺言書の中には、書かれている内容が有効と言えないようなものもあり、中身をしっかり確認することも大事です。
相続財産の調査
故人から相続する財産を調べて財産目録を作成するなど、すべての財産を正確に把握するための調査を行います。
相続財産には現預金や不動産など正の財産だけではなく、借金などの負の財産、そして連帯保証の義務も調べなければなりません。
この相続財産の調査ですが、日本国内の現預金や不動産だけであればそれほど大変な作業ではないのですが、ネット証券による投資や仮想通貨などが入ると難易度が上がります。
また海外に資産がある場合で、勝手に財産を処分できない検認裁判(プロベート)制度がある国の場合など、専門家の力を借りないと手続きが進まなくなるでしょう。
相続税がかかる場合の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内なので、あまり悠長に構えてはいられません。
法定相続人の確定
法定相続人を確定させるために、故人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本が必要になります。
ここで故人の隠されていた事実が分かってしまうということも、近年では決して珍しいケースではなくなっているので、慎重な調査が必要です。
例えば個人に離婚歴があり前妻との間に子をもうけていた場合や、愛人との間に生まれた子を認知していたときは、その子も法定相続人となります。
また故人に配偶者や子どももおらず両親も他界して、相続順位第3位の人が相続するようなケースでは、それこそ「知らない親戚」が現れることもあるので、かなり困難な作業になるかもしれません。
協議を行って相続割合を決める
相続財産も法定相続人も把握できたら、まずはすべての財産を相続するか(単純承認)、放棄するか(相続放棄)、あるいは相続人が相続財産から故人のマイナスの財産(借金など)を清算して、財産が余ればそれを引き継ぐ(限定承認)のかを決めます。
このうち限定承認を選んだ場合は手続きが煩雑で時間がかかるうえ、故人が亡くなると同時に資産を売却したとみなされ、場合によっては譲渡益に多額の所得税が課税されかもしれません。
故人の代わりに相続人が「準確定申告」を行う必要もあるので、税理士などに相談することをおすすめします。
さてプラスの財産の方が多く単純承認することになったら、相続財産をどのように分けるのか協議することになります。
遺産がすべて現預金であれば単純に金額の問題になるのですが、不動産や有価証券、書画骨董などがあると頭を悩ますことになります。
また相続人に配偶者がいる場合は、さらに先にやってくる二次相続のことも検討するいつ用があるかもしれません。
相続で揉める場面といえば、この遺産分割協議になるのが定番なので、中立な立場の専門家に協議へ参加してもらうことも検討しましょう。
遺産分割協議書を作成する
遺産の分配が決まったら遺産分割協議書を作成しますが、以下の事項を記載したうえで相続人の人数分用意します
- 相続人全員が分割方法や分割割合について合意している旨の文面
- 分割する相続財産の具体的な内容
- 相続人全員の住所、氏名、押印
公的機関や金融機関で相続に関する手続きをするときは、実印を押印した遺産分割協議書が求められるので、実印を使うようにしましょう。
また氏名については、各相続人が自筆で署名することで、後日「遺産分割協議書を勝手に作られた」と言い出す相続人を防ぐことができます。
遺産分割を自分で作成!メリットとデメリット
遺産分割協議書を作成するまでの流れは理解できたところで、これを自分で作成するメリットとデメリットを考えてみましょう。
自分で作成するメリット
遺産分割協議書を自分で作成するメリットは、費用を抑えられることに尽きます。ちなみに弁護士に依頼するのは、相続人同士で遺産分割のトラブルがある場合の解決を依頼するようなケースでしょう。
その場合、解決する業務のなかに遺産分割協議書の作成も含まれるため、日本弁護士連合会旧報酬規程に近い費用が必要です。
依頼人の得る経済的利益 | 着手金(最低10万円) | 報酬 |
---|---|---|
300万円以下 | 8% | 16% |
300万円超~3,000万円以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3,000万円超~3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円超 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
先ほど説明した一連の作業の中で、とくに難しいことがなければ遺産分割協議書を自分で作成することも、それほど難しいことではありません。
亡くなる前に相続の話をするのは憚られると思いますが、近年は終活の一環として生前に財産整理を行うか方も増えたので、準備さえしっかりできていれば相続人自ら遺産分割協議書を作成するも珍しいことではありません。
自分で作成するデメリット
遺産分割協議書を自分で作成する分かりやすいデメリットは、簡単にいえば作成に至るまでのプロセスが面倒なことです。
相続財産が多額で種類が多い場合や、法定相続人の関係が複雑な場合など、そもそも自分で進めるのが不可能なケースも多いでしょう。
では自分で作成できないときに、どの専門家に依頼するかは、どこに問題があるのかで決めるとよいでしょう。
相続人同士のトラブルもなく、資産が多く管理が面倒なときは信託銀行に丸投げするのも手ですが、トラブルなどを抱えている場合は弁護士に依頼します。
また遺産相続で相続税対策や確定申告を依頼するときは、相続税対策に強みをもつ税理士に依頼することで、無駄な相続税を払わずに済むでしょう。
もし戸籍謄本など必要書類の取り寄せや、遺産分割協議書の作成だけ依頼するのであれば、行政書士に依頼するのが一番安上がりです。
まとめ
遺産分割協議書の作成は義務ではありませんが、多くの場面で必要になる書類なので、現実的には作成することが多いものです。
とくに相続税の申告において、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などで節税する場合には必ず必要になります。
少子高齢化と多死化の影響から、相続税の課税件数が増え続けているので、相続税対策をかねて一度税理士に相談しておくことがおすすめです。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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