川越の税理士による創業支援。開業1年以内に「必ず」やってくる「5つの危機」
目次
こんにちは。川越の税理士法人サム・ライズの林亜由美です。
埼玉県川越の地で20年以上、新設法人様の安定経営と利益の拡大に協力して来ました。
帳簿の管理と決算だけを行う税理士なら、どこにでも、いくらでもいますが、私たち税理士法人サム・ライズが目指すのは、「クライアント様と共に成長・発展すること」です。
クライアント様は、そうした理念に共感して下さる方ばかりですから、おかげさまで、不況の中にあっても、皆さん、順調な経営を続けています。
しかし……。
世の中の情勢が、今後ますます厳しくなって行くことは、あなたもおわかりのことでしょう。これから数年で、思いもしなかったような大企業の破綻さえ予測されています。
内需の停滞、労働人口の減少、公的出費の増加と、それにともなう税負担の増大、さらにはさまざまな外圧……今後の数年は、終戦後レベルの激動すら起こる可能性を秘めています。
こうした情勢の中にあっても、あなたのような「気鋭の」「やる気のある」経営者たちが、続々と会社を設立し、飛躍のスタートを切っています。
それは実に素晴らしいことです。間違いなく、今後の日本にとって、大いなる原動力となるはずです。
だからこそ!なのです。
あなたも既におわかりのように、新設法人の存続率は、法人設立1年後で60%、3年後では38%…… 5年後に存続している会社はわずか15%しかありません。
つまり、設立直後ほど破綻の危機が大きいのです。
そこを乗り越え、会社が5年、10年と存続し、発展するかどうかは、法人開設後の1年に掛かっています。
20年間の、たくさんの新設法人様とのお付き合いの中で、私たちは、開設1年以内に「5つの危機」がやって来ることを学びました。
そして、破綻の要因の約8割が、その「5つの危機」を乗り越えられないからこそ生じていることを知りました。
その「5つの危機」とは何なのか、そしてその対処法を、これから詳しくお伝えします。
【第1の危機】開業1~3ヶ月後
マーケティング不在のままの事業のスタート
いきなりですが、質問です。
「経営にとって最も重要なことは何でしょうか?」
さて、あなたはどんな回答をしましたか。
お金……もちろん必要です。
しかし、必須のものではありません。
なぜなら、今時は、ほとんどお金を掛けずに起業できるから。
私の知っている女子高生で、スマホだけで毎月6万円程度のお小遣いを稼いでいるツワモノもいます(もちろん合法的なビジネスを行って……ですよ)。
商品やサービス……もちろん必要です。
しかし、商品やサービスは、会社を始めた後で、創ることも決めることもできます。
そして、最新の教科書類には「商品を決めてからビジネスをしてはいけない」と書いてあるものもたくさんあります。
お金も、商品やサービスも、「経営の要素」の一つでしかありません。
店舗も従業員も、営業活動や広告も同様です。
「経営」とは、「ただビジネスをするだけ」ではありません。
設立時の投資資金を回収し、黒字化し、その黒字幅を増やし、資産を大きくしていくこと……
これが「経営」です。
では、それが予定通りに行かないのはなぜなのか?
アメリカの大手企業調査会社ダン&ブラッドストリート社の調査によれば、「失敗するスモールビジネスの94%は、事業主のスキルと知識不足が原因」という結果が出ています。
そう、まさにその通り。
事業成功の要因、そして破綻の原因は、お金でも商品やサービスでもなく、「経営者のスキルと知識」です。
その「スキルと知識」を総称して「マーケティング」と呼びます。
全世界の、どんな商品やサービスであっても、ビジネスにおいては、マーケティングこそが不可欠の要素であり、ビジネスのスタートラインです。
従って、マーケティング不在のままにビジネスを開始しても、それがうまく行くはずはありません。
さて、ここで再度の質問です。
「マーケティング」という言葉……知らない人はいないでしょう。
では、この「マーケティング」という言葉を、日本語で説明して下さい。
いかがでしょうか。
あなたはきちんと回答できましたか?
きちんと答えられなかった方、マーケティングの4要素について言及できなかった方……まさにマーケティング不在の状況です。
これこそが「第一の」「最大の」危機なのです。
念のため、「マーケティングとは?」について、記載しておきましょう。
「マーケティング」とは、市場に働きかけて、あなたの商品やサービスに対する「需要を喚起すること」である。(Wikipedia)
そう、あくまで「需要を喚起すること」であって、単にビジネスを行う事ではありません。
例えばラーメン屋さん。
「ラーメン屋です」では、需要は喚起されません。「○○出汁で○○麺の、○○風○○味のラーメンを、こんなお店で出しています。店主はこんな人間です」
ということを、「ラーメン好きで、お店の近隣で働く、あるいは住む人に対して訴える」から、需要が喚起されます。
サービスメニュー、店構え、お店のUSP(Unique Selling Proposition)、店主のプロフィール、広告宣伝……これらが綿密に構築されてこそ、効果的に「需要を喚起」することができます。
「マーケティングの目的は、セールスを不要にすることである」(ドラッガー)
世界的権威であるドラッガー先生になると、さらに定義は収斂されます。
セールスを不要にすること……「セールスしなかったら売れないじゃないか」と思った人は、マーケティングを理解できていないことになります。
ここで言う「セールスを不要にする」とは、「こちらから売り込まなくても、顧客の方から手を挙げさせる」という意味です。
ネットビジネスは、まさにそのわかりやすい形。
電話や訪問や面談などの方法で、売り手側から押しかけるのではなく、顧客が自分から情報を探し、「欲しい!」と思うものを見つけ、顧客の方から手を挙げてもらう……それが可能になれば、断られることはなくなり、人件費を含めた費用も削減され、ビジネスの効率は一気に高いものになります。
「マーケティングとは、『効率化論』である」(税理士法人サム・ライズ)
私たちは、「マーケティング」の意味をさらにわかりやすく、漢字4文字の「効率化論」という言葉でクライアント様に説明しています。
・同じ時間で
・同じ費用で
・同じ作業量(手間、工数)で → 利益を増やす
時間は誰にも等しく与えられ、それは限られています。
利益を増やすために仕事時間を増やそうとしても、そこには限界があります。作業量についても同様です。
また、「経費削減」によっても利益を増やすことはできますが、もちろんこれも限界があります。
そして、掛けられる費用も限られています。費用を増やすのは決断さえすればできますが、それで利益が増えなければ、マイナスにしかなりません。
つまり、利益を増やすためには「効率化」しかないのです。
そのための理論が「マーケティング」であると、私たちは認識しています。
さて。
上記はあくまで「マーケティング」の定義に関する記載であり、実際にビジネスを行うにあたって、明確にしておかなければならないマーケティングの要素は、それこそ数えきれないほどあります。
それを考え、明確にし、戦術に落とし込み、実行することが、経営者の「仕事」です。
では、具体的にどんな要素があるのか……それをここにすべて書くことは到底不可能です。MBA資格取得のために何年間も学校に通って勉強する内容でさえ、マーケティングの「一部」でしかないのですから。
ここでは、一番の「大枠」である「マーケティングの4要素」についてのみ、触れておきます。
あなたはこの4つの要素について、自分のビジネスをしっかりと規定した上で、戦略を立て、戦術に落とし込まなくてはなりません。
しかも、上記の4つの要素を、自分のビジネスのサイズに合わせて、適切な「別の言葉」に置き換えなければなりません。
例えば「商品戦略(Product)」。
販売している商品を自社で開発・製造している会社の数はごくわずかしかありません。
他社が作った商品やサービスを販売している会社であれば、「商品戦略」は、商品開発力や製造力ではなく、「商品選択能力」「仕入能力」「情報収集力」「情報発信力」「付加価値サービス」などに置き換えることが必要です。
同様に、
◆「価格戦略」は、仕入れた商品を売っている場合は、「高価格戦略」「セット販売戦略」「高付加価値戦略」「リピート促進戦略」「価格ライナップ戦略」などに置き換えます。
◆「チャネル戦略」は、本社一ヶ所で、限定された地域内でビジネスを行っている場合は、「ジョイントベンチャー開拓」「紹介獲得戦略」「アフィリエイト戦略」「リスト収集戦略」などに置き換えます。
一般的に、マーケティングの4要素を置き換えずに戦略構築できるのは、日本の会社で言えば、自動車のマツダの規模以上と言われています。
つまり、上場企業でさえ「置き換え」が必要な会社が多数あるのですから、中小規模のビジネスの場合、置き換えは必須であり、その「置き換え」の誤りや甘さは、そのままビジネスの方向性の誤りにつながってしまいます。
ちなみに「広告戦略」だけは、事業規模に関わらず、置き換えは不要です。
「商品やサービスが売れない原因の第一位」は、価格でも機能でもデザインでもなく、「その商品やサービスや会社の存在を知られていないから」であり、それを補うためには、手法は手段はともあれ、広告しかありません(口コミや紹介も広告の一部です)。
大枠を提示したので、ここで、上記マーケティングの4要素について、中小規模ビジネスが開業時にチェックすべき「よくある間違い」について、それぞれ5つづつ、例示しておきましょう。
商品戦略
・「商品ありき」「単一商品」でビジネスを開始していないか?
・フロントエンド商品とバックエンド商品が用意されているか?
・商品や品揃えに競合との差別化ができているか?
・商品や商品ライナップにUSPはあるか?
・付加価値はあるか?
価格戦略
・低価格競争に巻き込まれていないか?
・高価格戦略が実施できているか?
・リピートや継続販売、セット販売の戦略があるか?
・価格の「松竹梅」が戦略化されているか?
・付加価値戦略が実施できているか?
チャネル戦略
・提携販売、新規チャネル創造の戦略はあるか?
・紹介システムがあるか?
・通信販売、インターネット販売はあるか?
・遠隔地からの注文に対応できるか?
・販売の現場や店舗のセールスマニュアルや教育システムは整備されているか?
広告戦略
・広告効果の低い「看板広告」(モノとしての「看板」を指すものではなく、広告の内容を指す用語)を出していないか?
・フリーペーパーなどの広告効果の低い媒体を利用していないか?
・顧客リストの入手、整理、セグメントを行っているか?
・DMを活用できているか?
・ホームぺージから充分な問い合わせや売り上げがあるか?
上記は、開業時にしっかりチェックすべき、マーケティングの要素のほんの一部です。実際のコンサルティングにおいては、この何倍ものチェックを行います。
これらをしっかりと決めていなければ、ビジネスはスタートできません。
そして、最初にしっかりと戦略と戦術を決定しなければ、以降も、どこをどう改善すればよいかがまったくわからなくなります。
さて、ここまでを読んで、あなたはどう思ったでしょうか。
「マーケティング不在」「準備不足」を感じてはいませんか?
しかし、開業直後は何かと忙しく、漠然と「不足」や「不備」を感じながらも、「思考」や「準備」に掛ける時間がもったいなく思えてしまうことさえ、ありがちなものです。
そして、あっという間に月日は経ち、マーケティング不在のまま、日々の経営を続けてしまう……。
その結果は「失敗するスモールビジネスの94%は、事業主のスキルと知識不足が原因」の、94%の仲間入りです!
「はじめに」に記載したように、新設法人が5年、10年と存続し続けることができるかどうか……その境目は設立時にこそあります。
そして、存続できるかどうかの要因のすべてが「マーケティング力」です。
マーケティング不在のままのビジネスのスタートは、破綻の最大の原因なのです。
【第2の危機】開業3~5ヶ月後
予定外の出費によるキャッシュフローの悪化
マーケティングについての基本的な知識すら持たないままに事業を始めてしまったとしても、ほとんどの経営者は、開業時にある程度の「資金計画」は立てているものです。
しかし、なかなか予定通りに行かないのは、個人の生活も会社経営も同じこと。
会社経営においても、開業から3ヶ月~5ヶ月後は、当初の資金計画にはなかった出費が発生しやすいものです。
どんな「思わぬ出費」があるのか、いくつか例をあげてみましょう。
器具、備品類の不足や不都合
事務機器や器具・工具、厨房器具やインテリア調度品などの設備が、実際の経営に合っていなかったということは非常に多くあります。
<例>
・複合プリンターで済むと思っていたが、コピー機が必要だとわかった。
・パソコンの性能が足りない、台数が足りない、ソフトが足りない。
・飲食店において厨房内の導線の改善が絶対に必要とわかり、厨房機器の配置換えのために、サイズの変更が必要になった
・新たな収納器具が必要になった。
・想定外の製造品の注文が入り、新たな機械や部品が必要になった。
・店舗や事務所の使い勝手の悪い箇所に気付き、早速の手直しが必要になった。
店舗、事務所のインテリア、エクステリア関係
開店前と、実際の営業時間中では、「感じ方」がかなり違うものです。
<例>
・照明の不足や音響機器の不具合の改善の必要性が生じた。
・扉、レジカウンター、衝立などの顧客導線の改善が必要になった。
・手荷物や上着などの預かりスペースの不足が生じた。
・収納スペースの増設、収納スペースのレンタルが必要になった。
・マット、カーテン、ブラインド、サンシェードなどが必要だとわかった。
・看板の視認性が良くないことに気付いた。
・入口、正面玄関、応接スペースの調度品類にチープさを感じ、追加や入れ替えが生じた。
広告費
予定した客数に満たず、広告費を増やす必要に迫られるケースは非常に多くあります。
しかも、ほとんどの場合、経営者は広告のプロではありませんから、集客不足の原因が広告の方法(メディア選択と広告そのものの内容)にあることに気付かず、広告量の増加や、新たなメディアへの広告出稿によって、広告効果を上げようとしてしまいます。
しかしそれは、大抵は逆効果に終わります。
なぜなら、広告の「売り手」も、広告そのものについては素人であるケースが大半(実際には「ほぼすべて」)であり、広告を「売ること」しか考えていないからです。
「広告戦略」は、マーケティングの4要素の一つであり、高度の専門知識とスキルが必要になります。
しかも、業種によっては、広告費用が開店直後の出費のかなりの割合を占めてしまうケースもあります。
しかし、広告のプロではない経営者が、素人同然の「売りたいだけ」の広告業者に多大な費用を払ってしまうケースが大半なのです。
<例>
・ホームページ作成業者からの電話営業で、「売れないホームページ」を作成してしまった。
・SEO業者からの電話営業で、ホームページのSEO対策をしてしまった(そもそも、ホームページ作成やSEO対策の業者が、電話営業をしていること自体、おかしいですよね?)
・フリーぺーパーに広告出稿してしまった(大手チェーン店以外は、どんな業種であっても、「やっても効果がない」ではなく「やってはいけないもの」なのです)。
・広告紙面、誌面を見たら、スペースが小さくて目立たないことに気付き、出稿スペースの拡大をしてしまった。
・パンフレットやチラシの評判があまりよくないことに気付き、デザイン変更と印刷が必要になった。
人件費
人手が足りず、急遽、社員やパート・アルバイトを募集する必要が生じるケースも多々あります。
人件費の増大は一時的なものではないので、総額ではかなりの負担増を強いられます。
また、募集広告の費用、社会保険料負担の増加も発生します。
交通費
社長の交通費が予定していた額の2倍以上……というケースは数多くあります。
また、社員の交通費、社用車のガソリン代、高速代、保険料などについては、予定外に増えても削減しにくいという問題もあります。
新たな仕入れ
開業し、実際にお客様と接すれば、たくさんの新たな「サービスメニュー」の必要性に気付くものです。
また、お客様から直接、「○○はないの?」「○○があったらいいのに」と言われたら、それに応えたいと思うのは、経営者ならば当然のことでしょう。
わかりやすい所では、飲食店での新メニュー。そこには予定外の仕入れ費用が発生しますが、しかしそれがそのまま利益の増加につながる保証はありません。
飲食店のように、仕入れが日々、あるいは数日おきで、購入単位が小ロットのビジネスならば影響も少なくて済みますが、ある程度のロット数が必要になると、在庫を抱えることになりますし、ストックスペースも必要になります。
売れ残れば不良在庫として残るばかりです。
接待交際費、会議費、会費
事業を開始すれば、新たな人間関係が発生します。
そこには、当然、新たな費用も発生します。
会社員時代なら、交通費も交際費も、「認められれば経費、認められなければ自腹」で割り切ることができますが、経営者になってしまえば、経費に算入しようがしまいが、経理処理上の項目が何であろうが、すべて「自分の財布から出たお金」です。
また、業界団体への加入、地元商店会や商工会団体への加入、それに伴うお付き合いの費用、得意先や関連業者団体への賛助金なども発生します。
いかがでしょうか。
上記はほんの一例でしかありません。
ある程度の年数を経ていれば、過去の経験に照らして対応もできるものですが、開業直後ではその経験もなく、同時に、開業直後だからこそ「今、やらなければ!」と思って、追加の投資をしてしまいがちなものです。
しかし、その結果は……早々の資金計画の破綻です。
そして、キャッシュフローが悪化する……
開業直後の最大の課題は、「開業資金を回収し、黒字化するまでの期間の短縮」です。
そうならなければ経営は黒字転換できず、廃業への道を進むことになります。
しかし、開業3 ~5ヶ月後に、出費が増大するのも常の事。
黒字化までの期間の長期化は、経営破綻に直結する重大な問題です。
これが第2の危機なのです。
【第3の危機】開業6~8ヶ月後
キャッシュフローの悪化と、利益の伸び悩み
あなたがどんなビジネスを行っていようと、求めるものは「利益」です。
もちろん、やりがいや使命感といった「情熱」があるからこそ開業したのでしょうが、利益がなければ事業そのものが立ち行かなくなります。
ここで、事業全体の利益について考えてみましょう。
開業直後は、単品商品あたりの利益はあっても、事業全体ではまだ赤字であるケースがほとんどです。
それが、時間の経過とともに徐々に利益が増え、開業に掛かった費用を回収し、黒字化する……
経営者なら誰しも、その時を心から待ち望んでいることでしょう。
これが「事業存続」のスタート地点。
これを充たすことができない会社が「早期廃業」という悲しい事態を迎えます。
つまりは、ここが「長きにわたって会社が存続できかどうか」の分岐点なのです。
であるならば、その時期が、いつ、どのようにしてやって来るのかについて、経営者は知っておかなければなりません。
では、利益はどのように増え、黒字化するのでしょうか。
開業時に設備投資が必要な事業と、設備投資がほとんど不要な事業では、開業費用を回収するまでの期間にかなりの差が生じますが、通常、「開業直後から月々の利益は変わらないが、それが積み重なって、一定の期間を経たので黒字化する」というケースは滅多にありません。
ほとんどの場合、以下のいずれかの推移を経て黒字化します。
A 開店直後は充分な利益があるが、それが一度減少し、その後、ある時期に再度利益が増え、それが安定(またはさらに増加)した結果、一定期間を経て黒字化する。
B 開店直後の一定の利益が、ある時期に急に増え、黒字化する。
Aは小売業、飲食店、美容院などのような「店舗形態の事業」によくあるパターンです。
開店直後は、広告費を集中的に掛けていることもあってお客様が来てくれますが、それが一段落してしまうと客足が落ち、利益が下がります。
しかし、その時期を乗り越えて、ある時、新規顧客獲得とリピート客獲得に成功した結果、再度利益が増え、黒字化に成功します。
Bはその他の業種の典型的なパターンです。
この他に「開業直後は利益がほとんどないが、大口の顧客が見つかるなどの幸運によって利益が一気に増え、黒字化する」というケースもありますが、そ
れは単なる幸運であって、頼ったり、望んだりしてはいけません。
ただし、多くの「マーケティング不在のままビジネスをスタートさせた会社」は、利益の伸び悩みの時期にあっても、「何をすべきなのか」がわかりませんから、「運頼み」の日々を送らざるを得ず、その運が巡って来ないと廃業……ということになります。
さて、話を戻しましょう。
上記(A)(B)のいずれのケースも、「ある時期に」「急に」「利益が増えた」結果として、事業全体の黒字化に成功します。
この「時」を迎えることができるかどうかが、「存続できるかできないか」の分岐点なのです。
統計上、この時期は、事業スタートからおよそ8ヶ月と言われています。
つまり、開業から6ヶ月目あたりでその兆候が感じられ、8ヶ月あたりで利益の増加が実感できる状態になることが、事業が存続できるかどうかの目安であり、分岐点になります。
このことを知っているのと知らないとでは、事業存続の可能性が大きく違って来ることは明らかでしょう。
もちろん「ある時期」「急に」とは言っても、それは偶然でも、運頼りでもありません。
【ケース1】開業時から実施していたマーケティング施策の効果が表れる。
<例>
・飲食店などの店舗型ビジネスにおいて、開店時からきちんと顧客データを収集し、DMやメルマガで再来店を促し続けた結果、ある時期にリピートが活性化し、以降、固定客が増え続ける。
・フロントエンド商品(「お試しコース」などの安価な入口商品や、無料のサンプル)購入者が、バックエンド商品(利益率の高い高額商品)を購入し始める。
・紹介システムやアフィリエイト対策が機能し始め、販売窓口が急に増える。
・ホームページやブログに記事を書き続けた結果、検索表示順位が急に上がる。
・「お客様の声」が一定数集まった結果、セールス活動が格段にしやすくなる。
・購入者へのアンケート調査を続けた結果、ニーズの高い新たな商品やサービスが発見できる。
【ケース2】経営者が「本来の業務」に専念できるようになった効果が表れる。
通常、中小規模のビジネスにおいては、最も優秀なセールスマンは経営者自身です。
同時に、経営者の本来の仕事は「マーケティング」です。
開店当初は様々な「作業」に追われ、経営者の本来の仕事に割く時間がなかなか取れないものです。
しかし、その作業も落ち着き、日々の仕事にも慣れ、さらには作業のための人員が確保できるようになると、経営者が「利益増加に直結する業務に専念できる時間」(=「生産的な時間」)が増えるようになります。
<生産的な時間とは……?>
・製品を作る
・マーケティング活動を行う
・マーケティングプロセスを改善する
・ジョイントベンチャーの取引をまとめる
・ビジネス拡張の方向性を調査する
・上記すべての「システム」を構築する
<非生産的な時間とは……?>
・挨拶回りや顔出し、同業者とのお付き合いの会合への出席
・電話セールスや飛び込み営業などの非効率的な営業
・予定外の電話や訪問客やメールへの対応
・総務や経理の事務作業、さらには雑務(備品補充のための買い物や、事務所の掃除)
・その他、「利益の増加」に直結しない作業全般。「利益」に直結する作業であっても、それが「増加につながる作業」でない場合、単なるルーティーンワーク。
経営者の「生産的な時間」が増えると「レバレッジ効果」が起こります。
その時、利益が「足し算」から「掛け算」に変化します。「掛け算」とは言っても、すぐに2倍、3倍、10倍になるわけではありませんが、しかし、A月に顧客が10人づつ増えて、6ヶ月で60人。7カ月で70人、8ヶ月で80人。
→ 12ヶ月目は120人。
B月に顧客が10人づつ増えて、6ヶ月で60人。
そこでレバレッジ効果(1.2倍)が生まれ、7ヶ月目は(60+10)×1.2で84人、8ヶ月目は(84+10)×1.2で112人。
→12ヶ月目は295人。
このように大きな差が生じます。
分かりやすく言えば、Bが「存続し続ける会社」であり、(A)は「このままでは存続が困難な会社」になります。
前述したように、開業3~5ヶ月後に予定外の出費が発生するケースはよくあります。
しかし、そこで悪化したキャッシュフローを跳ね返すだけの「利益の伸び」が、この時期に実感できることが、会社存続のためには必要です。
つまり、開業後6~8か月後に「利益の伸び」を感じられない場合、大きな「危機」に直面していることになります。
【第4の危機】開業9~11ヶ月後
資金ショートへの恐怖
開業3~5ヶ月目での、予定外の出費……。
しかし、6~8ヶ月目に期待すべき、利益の伸びもない……。
こうなると、当然、「今月の支払いは何とかなったが、来月の目処は全く立たない!」という状況に陥ります。
そう、「資金ショート」の恐怖に直面するのです。
事業存続にとって、目に見える、具体的に感じられる大きな危機ですが、しかしその原因は、開業前の計画段階からの、「マーケティング不在」と「資金計画の甘さ」にあります。
さて、そうは言っても時間は取り戻せません。
しかも、この時点での追加融資はほぼ無理でしょう。
自力で何とかするしかないのです。
ここでの対応法は3つ。
これを同時に行うしかありません。
まずは「運頼り」になってしまってはいけません。
過ぎ去ってしまった時間は取り戻せなくても、一刻も早く「何をすべきか」を明確にするために、マーケティングについて、改めて、真剣に考える必要があります。
自力で無理なら、専門家を頼るべきです。
……とは言っても、実力なき自称「○○プランナー」「○○アドバイザー」「○○コンサルタント」は、巷にあふれるほど存在しています。
危機的状況でそのような人にお金を払うハメになっては、破綻までの時間を短くするばかりです。
ここは一冊、有益な本を買って、それを信じて行動しましょう。ダン・ケネディの「小さな会社のための成功事例大全」「ビジネス戦略」「セールス戦略」あたりがお勧めです。
そして2つ目の行動。
それは、開業以降の活動をすべて検証することです。
一から新しいことを始めるのでは、結果が出るまでに時間が掛かります。
だから、今まで行ってきた施策の中で、比較的短時間で結果につながるものや、「もう一息!」と思われるものをピックアップし、どこが不十分だったのかを考え、集中的に取り組むのです。
そして3つ目の行動。
それは、とにかく「理論に沿って必死にジタバタすること」。
資金ショートの危機など、ないに越したことはありませんが、しかし実際には、珍しいことでも何でもありません。
極端に言えば、危機を一度も感じないままに順調に経営を続けている会社の方が珍しい……とも言えます。
そう、多くの会社の経営者が、ある時期、危機を感じ、そして「必死にジタバタ」したのです。
金策、営業に走り回った結果、会社が存続できているのです。
そこで出るのが「火事場の馬鹿力」。
そして何とか危機を乗り越え、火事場の馬鹿力を「成功体験」に替え、以降の経営に役立てています。
だからこそ、なおさら「理論」と「検証」が必要なのです。
ジタバタは必要。
でも、それを短い期間で成果につなげるためには、「ジタバタの裏付け」となる「思考」が必要です。
行き当たりばったりの行動では、運頼りになってしまいますからね。
そしてもう一つ。
悠長に感じられるかもしれませんが、危機を感じた時こそ、日々、日記を付けましょう。
危機を乗り越えたからと言って、それで安泰というわけではありませんし、そこから先の時間の方が長いのです。
その時に、この時期の日々を記録した日記が役に立ちます。
なぜ危機が訪れたのか、どうやってそれを乗り越えたのか……火事場の馬鹿力は、思考と行動を凝縮させ、経営スキル短期間で向上させます。
その経験を将来につなげるための、極めて有効な方法が日記なのです。
【第5の危機】開業1年後
ルーティーンワークの定着と、発展なき日々の始まり
さて、数々の危機を乗り越え、無事に1年を迎えた……おめでとうございます。
「早かったな~」……そう思う反面、「実に色々なことがあった 1 年だった」とも思うことでしょう。
仕事にも、経営にも慣れ、ある意味「安らぎ」のようなものさえ感じることができるのが、この時期です。
しかし、そんなあなたには、さらなる「危機」が忍び寄っています。
しかも、この「危機」は、あなたのこれからの何十年間の人生を左右しかねない、大きなものでもあります。
その「危機」とは、
「ルーティーンワークの定着、仕事量の増加……しかし発展しない事業、変わらぬ日々への隷属の始まり」です。
親の代から商売をしていて、代替わりして法人化した……こうしたケースを除けば、新設法人の経営者であるあなたは、大抵の場合「元○○会社の社員」であったはずです。
その状況を擲ち、自分のビジネスを立ち上げ、法人化したあなたには、大いなる願望があるはずです。
例えば……
・会社員では得られないような、高額の収入を得たい
・会社を大きくし、多くの従業員から尊敬される存在になりたい
・その分野の第一人者になりたい、No. 1 の会社になりたい、有名になりたい
・複数の会社を創り、多角的な経営を行いたい
・ストレス少なく、楽しくできる一生の仕事をしたい
などなど。
しかし、多くの経営者が、朝起きて、たくさんの「やらなければならないこと」をこなし、経営者になったことで生じた新たな人間関係を調整し、給料を払い、支払いを済ませ、借金を返し、生活費を確保する……こうした日々を送っています。
もちろんそれで生活は成り立つかもしれませんが、しかし、はたしてそれは、あなたが開業前に望んだ生活でしょうか?
これでは会社員時代とあまり変わりません。
ただし、大きな違いもあります。
それは、会社員ならば、「やってもやらなくても同じ給料」であるのに対し、経営者の場合は「成果に応じて収入が増える」ことです。
それは当然ですが、ここには、あなたを待ち受ける「大きな落とし穴」があります。
それは、「社長がやったらやっただけ、出費も減る」ということなのです。
かつて、コンビニエンスストアのフランチャイジーの多くが、悲惨な状況に陥っていました(今でも……なのでしょうが)。
コンビニの経営者には、戦略はありません。戦略については、本部からの指示通りに行う必要があります。
それに違反すれば、莫大な違約金を払わされてしまいます。
ということは、開店して、お客さんが少なかったとしても、できることは限られているのです。
それは「人件費の削減」。
社長と奥さんが目一杯店に出る……これが最大の努力になります。
かつて、娘の結婚式に、コンビニの経営者が出席できなかったという悲しい話を聞いたことがあります。
本部の規定で、店舗に立つ最低人数が決められています。
違反すれば罰金です。
ところが結婚式当日、人員の手配ができず、母親だけが出席し、経営者である父親は、泣く泣く店に立っていたというのです。
そんな仕事であっても、安易に辞めることはできません。
借入金、出資金、違約金……。
儲からなくても、つらくても、とにかく続けざるを得ないのです。
「それはひどい」……あなたもそう思うことでしょう。
しかしこれは、多くの経営者の縮図でもあります。
当初の予定とは違って、自由も楽しさもあまりないし、莫大な収入が得られるわけではない……しかし、やめるわけには行かないし、そのつもりもない。
何とか資金ショートの壁を乗り越えることができた経営者なら、なおさらそう思うはずです。
しかし、経営に「戦略」と「中長期の計画」がないと、できることは「社長自身が目一杯、長時間働くこと」しかなくなってしまいます。
これでは前述のコンビニオーナーと、あまり変わりません。
「会社を始めて10年が経ちました」……素晴らしいことだと思いますが、その10年間が「目一杯、長時間働くこと」であり、資産もさして増えず、何とか経営を続ける10年だったとすれば、それはおそらく当初の意図とは大きく違った10年……ということになるでしょう。
そう、これからの長い人生がどのようになるのかは、この時期にかかっているのです。
人生において、仕事に費やす時間はおよそ10万時間。
この時間が、辛く苦しい「耐える」時間なのか、それとも夢と希望を実現させる素晴らしい時間なのかによって、人生における幸せの量は大きく違ってきます。
開業直後の経営者に忍び寄る「危機」を乗り越え、2年目を迎える時こそ、正しい戦略思考と、明快かつ論理的な中長期の計画を再構築する必要があります。
それらがないまま、労働時間と仕事量が増え、それがルーティーンワークとして定着してしまうと、以降も、何年、何十年と、同じ状態が続くことになります。
その結果が、会社への隷従……。
社長の仕事は経営です。作業ではありません。
この時期の「思考」と「将来への準備」があるかないかで、今後の人生が決まってしまうのです。
「5つの危機」を回避するために~おわりに
あらためて、アメリカ大手調査会社D&B社の調査結果を引用します。
「失敗するスモールビジネスの94%は、事業主のスキルと知識不足が原因だ」
しかし、スキルと知識を「完璧に」持っている人など、いるはずがありません。
では、成功する企業は、その不足をどのようにしてカバーしているのでしょうか。
この問いに対しては、以下のデータが答えを与えてくれます。
「スモールビジネスの失敗における70%の要因は、事業主が自らの弱みを無視し、助けを求めないことにある」(SCORE社調査結果)
あなたは、事業を継続させ、発展させるために、日々前向きにビジネスに取り組んでいることでしょう。
だからこそ、私たち税理士法人サム・ライズは、あなたにこう言いたいと思います。
あなたが、あなたの事業に忍び寄る危機を認識し、それを回避しようと問題点に取り組んでいるのなら、あなたは正しい道にいることになります。
しかし、残念ながら、それだけではまだ危機から脱出できたとは言えません。
あなたが前向きに課題に対処しようとしても、それは、あなたが正しい知識や充分なスキル、適切なマーケティングプラン、適切な中長期の事業計画を持っ
ていることを意味しないからです。
社長の仕事は、作業ではありません。営業活動ですらありません。
社長の仕事は「経営」です。
会社を存続させ、発展させ、理想の人生に近付くための「思考」こそが、仕事の本質です。
「思考」と言っても、理論なき思考は「迷い」や「悩み」でしかありません。
その「思考」を、わかりやすい言葉に置き換えれば、「課題設定力」となるでしょう。
何を、どうすべきか……「課題」を明確に設定するための「思考」には、理論と指針が必要になります。
理論とは「マーケティング」であり、指針とは「マーケティング理論に沿った中長期計画」です。
それらは、今すぐ必要なものですが、しかし同時に、一朝一夕に身に着けられるものではありません。
私たちは20年間、新設法人様のパートナーとして、その「思考」のお手伝いをして来ました。
あらためて言います。
私たち税理士法人サム・ライズが目指すのは、「クライアント様と共に成長・発展すること」です。
どうか、私たちの経験と実績を、あなたの経営にお役立て下さい。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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