【最新】社会福祉法人の会計基準とは?専門税理士 がわかりやすく徹底解説します
目次
社会福祉法人の会計基準は、一般企業のものとは大きな違いが見られますが、それは法人としての事業目的が違うことと、これまでの会計慣行の差が現れているからです。
社会福祉法人の経理は、一般企業の経理経験者も初めて触れると戸惑うものですが、本記事では社会福祉法人の会計基準について、税理士が基本部分を分かりやすく解説します。
社会福祉法人の基本とその会計基準
社会福祉法人という名称は、社会人として生活していると自然と耳に入ってくるものですが、詳しい中身について考えたことはあるでしょうか。
その名からは、「社会の福祉に寄与する法人」くらいは想像できると思います。
まずは社会福祉法人の基本と、特徴的な会計基準について、企業会計との違いも含めて確認してみましょう。
社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉事業を行うために設立される非営利の公益法人で、法人税法上は「公益法人等」に該当します。
そのため本来事業(社会福祉事業)は非課税になるなど優遇措置が取られており、これは剰余金配当と残余財産分配ができないからです。
社会福祉法人は、主に障害者や高齢者などを対象とした各種福祉施設や保育園、さらには病院や診療所などの医療機関の運営主体となっています。
これらのうち、特別養護老人ホームや障害者支援施設など利用者保護の必要性が高いもの(第1種社会福祉事業)は、原則として社会福祉法人のほか国や地方自治体、もしくはそれに準じると認められた団体(日本赤十字社など)しか行えません。
社会福祉法人の会計基準
会計基準とは、会計処理および会計報告における法規範ですが、社会福祉法人のそれは厚生労働省令と一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行から成り立っています。
ただ多くの部分は企業会計基準と共通しており、複式簿記の採用や、真実性の原則や正規の簿記の原則などは、皆さんも馴染み深いのでしょう。
以前までの会計基準では、社会福祉法人であっても事業内容によってさまざまな会計ルールが認められていました。
しかし平成27年度(2015年)に、社会福祉法人会計の一元化を目的として、新会計基準への完全移行が行われています。
つまり現在では、新基準による社会福祉法人会計が行われているのですが、附属明細書や注記、更に社会福祉充実残額の算定も必要とされるなど非常に煩雑な処理が必要です。
社会福祉法人会計と企業会計の違い
社会福祉法人会計と企業会計は、そもそも法人の目的が違うことが大きな差となって表れています。
一般企業の事業は「利益を上げる」ことが大きな目的で、企業会計は利益を計算することに主眼を置いているといえるでしょう。
しかし社会福祉法人は社会福祉事業を目的とした非営利の法人なので、事業の継続性や安定性などの必要とされる情報提供に主眼が置かれています。
社会福祉法人と株式会社など営利法人との違いは、下表のとおりです。
社会福祉法人 | 一般企業 | |
事業の目的 | 非営利 | 営利 |
根拠法 | 社会福祉法 | 会社法 |
出資者の持分 | なし | あり |
剰余金の配当 | なし | あり |
会計基準等 | 社会福祉法人会計基準 | 会社計算規則 |
計算書類 | 資金収支計算書 事業活動計算書 貸借対照表 |
貸借対照表 損益計算書 株主資本等変動計算書 個別注記表 |
会計単位 | 事業区分、拠点区分、サービス区分を設ける | 法人全体 |
計算書類でも貸借対照表は同じものですが、社会福祉法人の事業活動計算書や資金収支計算書は、一般企業の損益計算書やキャッシュフロー計算書と違いが見られます。
詳しくは後段で解説しますが、これらの違いが社会福祉法人ならではの会計の特徴といえるでしょう。
社会福祉法人会計の特徴と注意点
社会福祉法人と一般企業の違いは理解できたと思いますが、その違いが社会福祉法人会計にどんな特徴となって表れているのか具体的にみていきましょう。
一取引二仕訳
先ほど社会福祉法人と一般企業の違いを表にまとめましたが、そのなかで会計の計算書類に注目してください。
企業会計では貸借対照表に対応しているのは損益計算書なので、一つの取引に対して仕訳は一つだけで済みます。
しかし社会福祉法人会計では、貸借対照表に対して事業活動計算書と資金収支計算書も2つの計算書類が反映しなければなりません。
そこで出てくるのが「一取引二仕訳」というもので、一つの取引に対して2つの仕訳を起こす必要があります。
これは事業活動計算書を損益計算書、資金収支計算書をキャッシュフロー計算書へ置き換えれば理解しやすいでしょう。
つまり貸借対照表と損益計算書に対応する仕訳と別に、キャッシュフロー計算書用の仕訳を起こすようなものです。
例えば事務用品1万円を現金で購入した場合、企業会計と社会福祉法人会計の仕訳は以下のようになります。
【企業会計の場合】
借方 | 貸方 | 金額 |
事務消耗品費 | 現金 | 5万円 |
【社会福祉法人会計の場合】
借方 | 貸方 | 金額 |
事務消耗品費 | 現金 | 5万円 |
事務消耗品費支出 | 支払資金 | 5万円 |
見て分かるとおり2段目の仕訳が社会福祉法人会計独特のものです。
資金収支計算書と支払資金
一取引二仕訳は、資金収支計算書のために仕訳がもう一つ必要だと説明しましたが、「支払資金」なる科目は企業会計では目にすることはありません。
この支払資金とは、簡単にいえば流動資産と流動負債の差額のことで、支払資金の増減を集計した計算書類が資金収支計算書です。
社会福祉法人は、公的資金を受け入れて事業活動を行う公益性の高い団体なので、資金収支計算書は予算と決算を対比する形式になっています。
つまり予算管理を重視する計算書類であり、経営分析にも利用しやすい書式になっているのが特徴です。
会計単位と内部取引
社会福祉法人会計の特徴の一つとして、事業区分・拠点区分・サービス区分の3階層に区分し、計算書類は法人全体と区分ごとにそれぞれ作成することが挙げられます。
事業区分は、社会福祉事業・公益事業・収益事業に分け、その下の階層で場所の違いで区分します。
場所の違いの下の階層ではサービスごとの違い(制度の違う事業ごと等)で区分するので、規模の大きな社会福祉法人では相当数の計算書類になることが分かるでしょう。
分けられた区分間で取引がある場合は、法人全体で集計を行う際に相殺消去を行いますが、これは一般企業の連結決算における相殺消去と同じ考え方です。
その他の特徴
社会福祉法人は、公益性の高い事業を安定的、継続的に経営していくため、その設立に当たっては事業継続を可能とする財政基盤を有することが必要であるとされています。
原則として1億円以上の資産を基本財産として有しておらねばならず、基本財産には社会福祉事業の用に供する固定資産等を計上します。
つまり社会福祉事業に供さない遊休地などは基本財産にはならないので、この区分けはしっかり行うことが必要です。
また社会福祉法人は出資による持分がないので、貸借対照表の純資産の部には資本金ではなく基本金が計上されています。
この基本金の中身は、社会福祉法人が設立並びに施設の創設及び増築等に当たって財源として受け入れた寄附金で、社会福祉法人を運営していく限り、原則として維持されつづけなければならない純資産です。
また社会福祉法人は、その公益性の高さから国や地方公共団体から補助金の交付を受ける場合が多くなります。
その場合特別収入の施設整備等補助金収入に計上しますが、同時に国庫補助金等特別積立金に繰り入れることで、損益計算に影響がでないようにします。
つまり企業会計における圧縮記帳と同じような処理です。
まとめ
社会福祉法人の会計基準は、その財務状況を適切に公表するための会計基準といえます。
その計算書類はインターネット上でも公開されているので、それを見ることとで大まかな特徴が掴めるでしょう。
ただ企業会計に慣れている身にとって、その特殊性には違和感を覚えますが、基本をしっかり押さえることで十分対応ができるはずです。
この記事が社会福祉法人会計へ目が向くきっかけになれば幸いです。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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