保育園・幼稚園のめんどくさい会計処理。一般企業との違いとポイントを税理士が解説
目次
少子化の進展や待機児童問題を背景として、政策的なバックアップもあり設置数が増えているのが保育園と認定こども園です。
また幼児教育の中心だった幼稚園も、変化してきた子育て環境に適応するよう進化をしています。
これらの施設は、会計処理も準拠すべき会計基準が違うことから、かなり面倒な作業となりがちです。
本記事では、保育園・幼稚園や認定こども園の会計処理について、一般企業との違いを踏まえて、税理士が詳しく解説します。
保育園や幼稚園などの違いと会計処理
子育て世代であれば、当事者であるだけに保育園や幼稚園、そして認定こども園の違いは理解していると思います。
一方で施設側の会計処理については、一般企業との違いが大きいことから、基本的なことから学ばなければ理解しづらいものです。
そこで施設の基本的な内容や、設置できる法人ごとの会計処理の違いを中心に確認してみましょう。
保育園・認定こども園・幼稚園の違い
会計処理を理解するためには、保育園や幼稚園など施設ごとの違いを知ることが大切です。
それぞれに目的や根拠法令、管轄官庁などが違うので、その一覧を確認してみましょう。
保育園 | 幼稚園 | 認定こども園 | |
施設の位置づけ | 児童福祉施設 | 教育施設 | 園により異なる |
管轄官庁 | 厚生労働省 | 文部科学省 | 内閣府 |
根拠法令 | 児童福祉法 | 学校教育法 | 就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律 |
利用対象者 | 保育に欠ける乳児・幼児 | 満3歳から小学校就学の始期に達するまでの幼児 | 保育に欠ける子も欠けない子も受け入れて、教育・保育を一体的に行う |
保育時間 | 8〜11時間 | 4時間 | 4〜11時間 |
利用料等 | 3歳~5歳の利用料は所得にかかわらず無償。 0歳~2歳の利用料は住民税非課税世帯を対象として無償。 |
私学助成園は所得にかかわらず25,700円を上限に給付。 新制度移行園の利用料は所得にかかわらず無償。 |
3歳~5歳の利用料は所得にかかわらず無償。 0歳~2歳の利用料は住民税非課税世帯を対象として無償。 |
保育園や幼稚園は古い歴史がありますが、認定こども園は2006年から開始された制度です。
これは共働きの家庭の増加に伴い保育園の入園希望者が増える一方で、それに反比例するように幼稚園の入園希望者が減少したことに対応するため始まりました。
簡単に言えば、子供を保育し養育の補助を行う「保育園」と、就学前の児童に予備的な教育を行う「幼稚園」、そしてその中間に位置するのが「認定こども園」です。
施設を設置できる法人
会計処理を考えてみると、保育園のような児童施設を設置できる法人の種類による違いに着目したほうが分かりやすいかもしれません。
そこで保育園や幼稚園などを開設できる法人について確認してみましょう。
施設の種類/法人 | 学校法人 | 社会福祉法人 | 株式会社等 |
幼稚園 | 〇 | × | × |
認可保育園 | 〇 | 〇 | 〇 |
幼保連携型認定こども園 | 〇 | 〇 | × |
幼稚園型認定こども園 | 〇 | × | × |
保育所型認定こども園 | 〇 | 〇 | 〇 |
地域裁量型認定こども園 | 〇 | 〇 | 〇 |
地域型保育事業 | 〇 | 〇 | 〇 |
企業主導型保育事業 | 〇 | 〇 | 〇 |
見て分るとおり、文部科学省の管轄となる幼稚園や幼稚園型認定こども園の制限が強くなっています。
ここで着目すべきは、どの法人格が開設できるかで、会計基準が変わってくることです。
社会福祉法人が設置する場合の会計処理
社会福祉法人は、社会福祉法に基づいて設立される民間の非営利法人なので、一般企業と真逆の存在と言えます。
その会計基準は、社会福祉法人会計基準に基づき法人全体・事業区分別・拠点区分別に資金収支計算書、事業活動計算書及び貸借対照表やこれらの内訳表を作成しなければなりません。
基本的に「社会福祉に役立つ」存在であるので、収益事業以外は法人税が非課税で、法人住民税にも優遇措置が取られています。
社会福祉法人の会計が面倒なのは、社会福祉法人会計基準に基づき法人全体・事業区分別・拠点区分別に資金収支計算書、事業活動計算書及び貸借対照表やこれらの内訳表を作成することです。
また仕訳の仕方も独特なので。恐らく一般企業の会計との違いで違和感を覚えるのはこの点だろうと思います。
社会福祉法人が運営できるのは保育園か認定こども園で、これらの事業については法人税や消費税は非課税となり、消費税に関しては消費税法別表第3に掲げる公益法人等に該当することに留意が必要です。
学校法人が設置する場合の会計処理
学校法人の会計は、学校法人会計基準に基づいた処理が必要になり、その目的は教育研究活動を円滑に遂行されたかどうかを捉えることです。
この辺りは単年当たりの収益性を計算する一般企業会計との大きな違いで、社会福祉法人の会計と似たような部分があります。
税務上の注意点も社会福祉法人と同じで、税制上の優遇措置が取られているので、透明性の高さが求められているといえるでしょう。
面白いことに、学校法人も社会福祉法人も、一般企業の会計と「貸借対照表」の作成は同じです。
つまり、その他の財務諸表の特徴を知ることが学校法人の会計を知る基本で、以下の書類を作成する必要があります。
- 資金収支計算書とこれに付属する内訳表及び活動区分資金収支計算書
- 事業活動計算書及びこれに附属する事業活動収支内訳表
これらの他に貸借対照表と各種明細書が必要ですが、何より上記の書類が面倒だと感じるはずです。
学校法人や社会福祉法人は、基本的に営利を求めない存在だからこそ、一般企業の会計と違いが明確になると理解すると分かりやすいかもしれません。
株式会社が設置する場合の会計処理
多くの経理経験者が慣れ親しんでいる「株式会社の会計」は、言うまでもなく「利益を明らかにする」会計です。
その会計処理は、企業会計原則等の一般に公正妥当と認められた会計処理の基準に基づいて行わなければなりません。
株式会社は保育園や認定こども園を運営できますが、学校法人や社会福祉法人との最大の違いは「それも営利事業の一部」とされることです。
ただ面倒なのは、特定教育・保育施設等の事業ごとに区分した収支計算書又は損益計算書を作成しなければならないことで、一般企業では必要のない書類が必要となります。
この理由は、子育てに関する施設には補助金なとの支援があるからで、透明性の担保が重要になることが分かるでしょう。
子育て支援政策で複雑になる会計処理
政治の世界では、言葉だけかもしれませんが「少子化対策」や「子育て支援」と叫ばれています。
そのような流れの中で、保育園や幼稚園の会計処理も複雑さを増しており、つねに政府や地方自治体の支援策を確認することが必要です。
そこで会計処理に係る「子育て支援」の影響について考えてみましょう。
幼児教育・保育の無償化と注意点
2019年10月1日から幼児教育無償化が始まり、該当する施設を運営している事業者の会計処理にも変化がありました。
この制度は「幼稚園、保育所及び認定こども園等の費用の無償化を図るもの」とされており、施設によって適用される要件に違いがあります。
施設は大きく2つに分けられており、一つは認定こども園や幼稚園の一部が移行した「新制度園」で、もう一つは従来型の幼稚園と同じ「私学助成園」となります。
このうち私学助成園の会計処理が少し複雑になり、市町村によって給付方法が「償還払い」(利用料を納付後支給する)または、「現物給付」(無償化分を徴収しない)かのどちらで処理方法が異なります。
また預かり保育等の制度もスタートしたことから、会計処理に不安を覚える場合は税理士などの専門家に相談することがオススメです。
今後も拡大されそうな幼児教育・保育支援
日本の少子化対策は、(今に始まったことではないのですが・・・)待ったなしの大きな課題となっています。
どの政党が政権を担ったとしても、今後も様々な給付措置などが拡充されるでしょう。
つまり保育園・幼稚園や認定こども園の会計担当者は、常に制度の変化を把握することが求められます。
恐らく会計だけを専任でできる環境にない方が多いと思うので、可能な範囲はアウトソーシングで処理することも、負担軽減のために検討すべきでしょう。
まとめ
幼稚園や保育園の会計処理は、一般企業会計との違いが多いことから、初めて携わる方にとって苦労することが多いものです。
ただ、慢性的な人手不足などで会計処理に専念もできず、困っている施設が多いことが推察されます。
会計処理は、後回しにしてため込むほど苦労が大きくなるものなので、積極的に税理士など外部の専門家の力を借りましょう。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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