社会福祉充実計画の策定
目次
こんにちは、川越の税理士法人サム・ライズの林 亜由美です。
前回は、決算の流れについてまとめましたが、みなさん、令和2年度の決算書類の作成はいかがでしたでしょうか。
新型コロナウイルス感染症に対する補助金によって補助金事業等収益明細書は例年よりも記載する部分が多かったですが、
消費税に関しては旧税率8%が混ざることなく10%と軽減税率8%になりましたので、昨年に比べると多少はやりやすかったのではないでしょうか。
今回は決算書類の作成後に必要となってくる社会福祉充実残額の算定と社会福祉充実計画の策定についてまとめていきます。
社会福祉法人は国民の税や保険料による介護報酬や委託料により事業が運営されているので明確な説明責任を果たすことが必要となります。
そのため、社会福祉法人は決算が完了すると平成28年に成立した社会福祉法等の一部を改正する法律(平成28年法律第21号)による社会福祉法(昭和26年法律第45号)において平成29年4月1日以降、毎会計年度、貸借対照表の資産の部に計上した額から負債の部に計上した額を控除して得た額が事業継続に必要な財産額を上回るかどうかを算定をしていかなければなりません。
これを社会福祉充実残額の算定といいます。
上記のように社会福祉充実残額を算定した結果、社会福祉充実残額が生じた場合は社会福祉充実計画の策定をおこない、所轄庁の承認を得た上で、地域の福祉ニーズ等を踏まえつつ、当該残額を計画的かつ有効に再投下をしていくことになります。
つまり、社会福祉充実残額を算定した結果、社会福祉充実残額が生じない法人は社会福祉充実計画を策定する義務はありません。
実際に社会福祉充実残額の算定をする際には、「社会福祉充実残額算定シート」というものを活用していきます。
社会福祉法人の財務諸表等電子開示システムのWebサイトか、厚生労働省の社会福祉法人制度のWebサイトにて「社会福祉充実残額算定シート」が提供されております。
「社会福祉充実残額算定シート」はEXCELで作成されており、簡易的な関数が入っておりますので財産目録や固定資産管理台帳、資金収支計算書などから各種数値を記載していけば算定できるものとはなっておりますが、社会福祉充実残額の算定の仕組みを理解するために今回は基本的な考え方を記載していきます。
社会福祉充実残額の算定式について
まず、社会福祉充実残額の算定式は以下の通りです。
①「活用可能な財産」-(②「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」+③「再取得に必要な財産」+④「必要な運転資金」)
つまり社会福祉法人が保有する財産から事業継続に必要な財産を控除して、再投下していく必要がある財産を算定しています。
①「活用可能な財産」=資産ー負債ー基本金ー国庫補助金等特別積立額
・法人単位の貸借対照表の資産の部から負債の部や基本金、国庫補助金等特別積立額を控除して活用可能な資産を算出しています。
この計算結果が0以下となる場合は社会福祉充実残額が生じないため、以降の計算は不要となります。
②「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」=財産目録により特定した事業対象不動産等の合計額
・「社会福祉法に基づく事業に活用している不動産等」として控除対象となる財産は法人が実施する社会福祉事業等に、直接又は間接的に供与されている財産であって、当該財産がなければ事業の実施に直ちに影響を及ぼしえるものとされております。
そのため法人が実施する社会福祉事業等の実施に直ちに影響を及ぼさない財産については控除対象となりません。
不動産等と記載はありますが固定資産に限らず、流動資産についても控除対象となります。
例としては商品・製品や前払費用等は控除対象となりますが、立替金や積立資産は控除対象となりません。
③「再取得に必要な財産」
【ア 将来の立替に必要な費用】
(建物に係る減価償却累計額 × 建設単価等上昇率) × 一般的な自己資金比率22%又は建設時の自己資金比率(22%を上回る場合)
減価償却累計額は、減価償却期間満了後の額ではなく、社会福祉充実残額を算定する各会計年度末において計上された減価償却費の累計額になります。
【イ 建替までの間の大規模修繕に必要な費用】
(建物に係る減価償却累計額 × 一般的な大規模修繕費用割合30%) - 過去の大規模修繕に係る実績額
・独立した建物ごとの減価償却累計額に、30%を乗じて得た額から、過去の大規模修繕に係る実績額を控除して、これらを法人全体で合算した額
過去の大規模修繕に係る実績額が不明な場合は次の計算式により求めることができます。
建物に係る減価償却累計額×一般的な大規模修繕費用割合30%×{建物に係る貸借対照表額÷(建物に係る貸借対照表額+建物に係る減価償却累計額)}
【ウ 設備・車両等の更新に必要な費用】
減価償却の対象となる建物以外の固定資産に係る減価償却累計額の合計額
・財産目録において特定した建物以外の固定資産に記載されている減価償却累計額の合計額となります。
④「必要な運転資金」=年間事業活動支出の3か月分
・職員給料や賞与の支払いや、建物の補修工事などの支出に備えるための流動資金として資金収支計算書に記載がされている事業活動支出額計を12で除したあとに3を乗じた額となります。
この④「必要な運転資金」には計算の特例があります。
③「再取得に必要な財産」と④「必要な運転資金」の額を合計した額が、法人単位資金収支計算書の事業活動支出計の金額を下回る場合は、法人単位資金収支計算書の年間事業活動支出計を控除することができます。
※社会福祉充実残額の合計額については1万未満を切り捨てます。
【社会福祉充実計画策定の手続き】
社会福祉充実残額の算定の結果、社会福祉充実残額が生じた場合は社会福祉充実残額を財源として計画を策定していきます。
社会福祉充実計画は原則として社会井福祉充実残額を算定した会計年度の翌会計年度から5ヵ年度以内の範囲で、計画策定段階における社会福祉充実残額の全額について活用しなければなりません。
ただし合理的な理由があると認められた場合は計画期間の10年までの延長が可能となります。
社会福祉充実計画に記載する内容は以下の通りとなります。
①既存事業の充実又は新規事業の規模及び内容
②事業区域
③社会福祉充実事業の事業費
④社会福祉充実残額
⑤計画の実施期間
⑥法人名、法人の所在地、連絡先等の基本情報
⑦社会福祉充実残額の使途に関する検討結果
⑧資金計画
⑨公認会計士・税理士等からの意見聴取年月日
⑩地域協議会等の意見の反映状況(地域公益事業を実施する場合に限る。)
⑪計画の実施期間が5ヵ年度を超える理由等
まとめ
今回は、「社会福祉充実残額の算定と社会福祉充実計画の策定」について詳しくまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。
必要な運転資金の計算の特例により、実際に社会福祉充実残額が生じている社会福祉法人は少ないとは思います。
もし、社会福祉充実残額を算定した際に社会福祉充実残額が生じた際など何かお困りごとがありましたら、川越の税理士法人サム・ライズへお気軽にご相談ください。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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