リーダーシップへの舞台裏Vol.17 ~今を駆ける社長のインタビューシリーズ~
目次
地域との絆を深める、スポーツビジネスの新たな形
~地域活性化と選手育成の両立を目指して~
プロ野球選手から球団の社長へと転身した角社長。彼の情熱が描く新たなスポーツビジネスの形とは?また、どのような経緯で社長職を引き受け、そしてどのように球団を成長させているのか、その熱い思いと未来へのビジョンにも迫ります!
【プロフィール】
1991年 神奈川県横浜市生まれ。
元プロ野球選手の父・角盈男のもと幼少期から野球に親しみ、小学1年生の時には本格的に野球チームに入団。以後も野球に打ち込み、強豪校である東海大相模高校へ進学。甲子園出場は逃すも、最終的にはプロ入りを果たし、2009年に千葉ロッテマリーンズへ入団。2015年、現役引退と同時に独立リーグの武蔵ヒートベアーズ(当時)と出会い、入団を決意。その後1年目は選手として、2年目からはコーチ、更に4年目からは監督として活躍。その実績と手腕を買われ、2021年に株式会社埼玉武蔵ヒートベアーズの代表取締役社長に就任。以降現在に至るまで、ローカルスポーツビジネスの確立・発展に向けて躍進中。
プライベートでも野球を愛してやまなく、他の趣味は無いと断言できるほど野球一筋の生活を送っている。
グラウンドから経営の舞台へ―
前向きな努力と挑戦が引き寄せた出会い
倉橋:さて、第17回目となる今回は、株式会社埼玉武蔵ヒートベアーズの代表取締役社長、角晃多さんにお話を伺います。プロ野球選手としてもご活躍なさっていた角社長ですが、現在は社長としてどのようなビジョンを描いていらっしゃるのか、その熱い思いをお聞きできるのが楽しみです!それではまず、会社の概要や事業内容について教えていただけますでしょうか?
角:はい。私は、株式会社埼玉武蔵ヒートベアーズの代表取締役社長を務めていまして、現在で3期目を迎えています。事業概要としては、独立リーグ公式戦の開催をはじめ、地域活性化を目的としたスポーツ普及活動、さらに行政や地域団体との連携事業の企画・運営に取り組んでいます。親会社である株式会社ONDOホールディングス(温浴事業・地域再生事業)傘下の一事業会社という位置づけで、所在地は埼玉県熊谷市久保島にある温浴施設内にあります。
倉橋:独立プロ野球球団の運営だけではなく、地域創生という観点での事業もなさっているんですね!具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?
角:そうですね…例えば、スポンサー営業の一環になるんですが、スポンサー企業様のCSRや社会貢献活動を我々が代行する、という活動をよくやっています。具体的に言うと、土日の学校の校庭や平日の保育園などへ出向して、野球教室やボール投げ教室を開催しています。その際には、スポンサー企業様の名前入りバナー(旗)を作って一緒に写真を撮ったり、ロゴ入りのボールを寄贈したりして、実態を作っていきながら地域に還元していくということを意識して活動しています。
倉橋:スポンサー企業様と地域の架け橋となるような取り組み、とても素晴らしいですね。何より現役の選手と一緒に野球ができるなんて、子どもたちの喜ぶ姿が目に浮かびます!ところで現在、社長として3期目を迎えられていると伺いましたが、プロ野球選手から社長へと転身されたその歩みは非常に珍しいと思います。これまでのご経歴も含め、どのような経緯で社長に就任されたのか、ぜひお聞かせください。
角:はい。私の経歴、かなり独特だと思います(笑)。高校時代からお話しますと、神奈川県にある東海大相模高校で3年間野球に打ち込み、卒業時にドラフト3位で千葉ロッテマリーンズから指名をいただきました。同球団へは育成選手(=一軍の公式戦には出場不可)として入団することになり、早くもプロの世界の厳しさを思い知らされましたね。それでも懸命に努力を重ねて、なんとか支配下登録を勝ち取ることができました。その後、入団6年目で戦力外通告を受けたのですが、ちょうどその頃、武蔵ヒートベアー ズ(当時)という独立プロ野球球団が新たに設立されることになり、ありがたいことに声をかけていただきました。これを機に入団を決意し、1年目は選手として、2~3年目はコーチとして、そして4年目以降は監督としてユニフォームを着続けました。この4年間で本当にさまざまな役割を経験させていただき、選手としてはベストナインに選出されるなどの成果を挙げ、指導者としてはチームを地区優勝に導くなどの実績を残すことができました。これらの評価がきっかけとなって社長職へのオファーをいただき、現在に至ります。ちなみに、監督から社長に就任するタイミングでM& Aによりオーナーチェンジとなったんですが、新たな親会社となった株式会社ONDOホールディングスさんは、もともとサム・ライズさんと長いお付き合いがあり、そのご縁で我々も亜由美先生とお引き合わせいただくこととなりました。
倉橋:そうだったんですね!お話を伺っていると、これまでに相当な努力や挑戦を積み重ねてこられたことが伝わってきました。今の環境やご縁があるのは、角社長がどんな時も前向きに努力を続けてきたからこそ引き寄せた結果なのだと思います!
かつて左のサイドスローとして、プロ通算99セーブを記録した名投手・角盈男(元巨人他)さんを父に持つ角社長。高校時代は神奈川県の名門・東海大相模で4番を務め、通算39本塁打の実績。その経験を活かし、現在は選手の気持ちを理解しつつ球団の成長を図るバランス感覚を発揮され、21年には球団初の地区優勝、22年は1塁コーチを兼任しながら指揮を執るなど、チームを牽引するリーダーとしての才能を発揮されています。
21年に球団初の地区優勝を達成し、選手たちと喜びを分かち合う角社長と感動の瞬間。一歩ずつ前進するチームのさらなる成長と、地域貢献を絡めた角社長の経営手腕が魅力です。
選手たちへの責任と愛情、監督就任の決意
倉橋:それにしても、これまでの波乱万丈と言える野球人生の中で、辛いと感じたり、辞めたいと思ったりしたことはなかったのでしょうか?社会人として別の道に進む選択肢もあったかと思いますが、そんな中、埼玉武蔵ヒートベアーズで続けていこうと決意された理由があれば、ぜひお聞かせください!
角:困りましたね…(笑)どちらかというと、いつも『しょうがないな、次はどうしようか』と前向きに考えるようにしているので、『辛くてどうしようもない』と感じたことがあまり無いんです(笑)。ただ、埼玉武蔵ヒートベアーズに入団した当初は、独立リーグで1~2年プレーしたら引退して、次の道に進もうと考えていました。でも、コーチを2年間務めて、いざ辞めようとした時には実は球団の経営がかなり厳しい状態で…そんな状況の中で『一緒に立て直してほしい』という意味も含めて、監督就任のオファーをいただいて。その時に真っ先に考えたのは、目の前の選手たちのことでした。コーチとして2年間一緒にやってきた彼らが、この球団で懸命に頑張っている姿を見てきましたので、彼らのために何とかしたいという気持ちが強くなり、監督のお話をお受けすることを決意しました。
倉橋:本当に、選手たちへの深い愛情と責任感を感じますね…!経営が厳しい中でも、選手たちを支えたいという思いで監督就任を決意されたことは、まさにリーダーシップの表れだと思います!!選手たちにとっても、角社長の存在が大きな支えになっていることは間違いないと思うのですが、角社長が選手たちとの信頼関係を築くために心掛けていることはありますか?
角:そうですね…そこは難しいところですよね。特に私は、選手に対して厳しい現実をあえて隠さずに伝えるよう心掛けているので、時には嫌われることもあるかもしれません。例えば、プロ野球リーグ(NPB)で活躍することを目標に当球団に入団した選手に対して、『あなたはこれぐらいの可能性があります』とか『あなたにはこれぐらいしか可能性がありません』という現実を、最初にはっきりと言葉や文字にして伝えるようにしているんです。でも、こういったことを正直に伝えられるのは、自分の経験があるからだとも思っていて。自分自身、高校を卒業してプロ野球の世界に飛び込みましたが、戦力外通告を受けて、それほど稼ぐこともできずにプロ選手としてのキャリアを終えました。だからこそ、選手に対して私の今の心境を重ねて伝えられるところだと思っていますし、無理に可能性の低いことを頑張れと言うのは、球団として無責任だと考えています。
倉橋:確かに、厳しい現実を伝えることは簡単ではないですよね。ただ、その正直な姿勢こそが選手との信頼関係を築く第一歩なのかもしれません。そういった言葉を受け取った選手たちは、どのような反応を示すことが多いのでしょうか?また、その後に選手のモチベーションをどう支えていくのか、ぜひ教えていただきたいです。
角:いきなり厳しい現実を伝えるので、最初は選手たちも相当なショックを受けることが多いと思います。ただ、その現実をしっかり受け止めることで、選手たちは自分に与えられた時間や可能性について真剣に考えるようになりますね。もちろん、単に厳しいことを伝えるだけではなく、その後どう行動すればいいのか、次のステップをしっかりフォローするよう心掛けています。具体的には、先に申し上げたような野球教室など、野球の試合以外の地域貢献活動にも選手たちを積極的に参加させています。そうすることで、彼らが将来について深く考えるきっかけが得られますし、社会とのつながりも実感できて、自分の役割を再認識してくれるようになります。結果的に、選手たちにとっても非常に有意義な経験になっていると感じています。
倉橋:なるほど、地域貢献活動も、選手たちにとって視野を広げる大きなきっかけになっているのですね。単なる競技の枠を超えて、人間としての成長を促す姿勢、本当に素晴らしいと思います!!
地道な努力が実を結ぶ、角社長の球団成長戦略
倉橋:ところで、選手たちにとってはファンの存在も大きな支えになると思いますが、球団としてファンを獲得するためにどのような取り組みを行っていらっしゃるのでしょうか?
角:そうですね。スポーツに限らず、人が集まる空間を魅力的にするには、やはり認知度がそのままブランド力につながると考えています。そしてその認知度を高めるためには、様々なイベントを開催したり、広告宣伝を活用して広く情報を発信したりといった、地上戦と空中戦の両方を行っていくことが理想的だと思っていて。ただ、私たちはまだ発展途上の球団なので、広告に大きな予算をかけることが難しくて…空中戦に関してはSNSを中心に地道な活動を続けている状況です。地上戦に関しては、ファンイベントや試合の満足度を高めることも重要視していまして、その一環として、選手とファンとの距離を縮める取り組みに力を入れています。例えば、一般的なファン感謝祭のようなイベントだけでなく、選手とバーベキュー大会を開くといった、直接触れ合える機会を積極的に作っています。こうした距離の近さが、当球団ならではの大きな魅力になっていると感じています。地道な努力の積み重ねになりますが、その成果として、ありがたいことに毎年ファン層が10%程度ずつ着実に増えているんですよ。
倉橋:選手と一緒にバーベキューができるなんて、他ではなかなか味わえない特別な体験ですよね!ファンの満足度も高まりそうですし、そうした温かい交流が球団の強みにもなっているんですね。それでは最後の質問になりますが、角社長が今後力を入れていきたい事業や、将来の展望をお聞かせください!
角:はい。スポンサー営業に関してお話ししますと、たとえば100の支援が必要な場面で、90の支援をしてくださる企業が1社あり、残りの10を10社が支えるという構図は、スポーツビジネスでは珍しくありません。こういった形態は一見安定しているように見えるんですが、もし90を支援してくださる企業が撤退することになると、球団経営が立ち行かなくなるリスクがあるんですよね。そのため、10の支援をしてくださる企業が10社、もっと言うと1の支援をしてくださる企業が100社いる方が、経営基盤としてはるかに安定すると考えています。もちろん、その分営業活動の負担は増えますが、長期的にはスポンサーコミュニティを広げることが大切だと思っているので、スポンサー様同士のネットワークを活性化させるような場を設けたり、多様な業種や規模の企業と協力しながら、支援体制をさらに多様化させたりしていきたいと考えています。そうすることで、球団としてのコミュニティを強化できますし、ファンだけでなくスポンサー様にも大きな価値を提供できるようになると信じています。また、社長就任から3期目を迎えたところですが、おかげさまで計画通りに黒字化を達成する見込みです。ここからさらに利益が出てくれば、その余剰分をファンマーケティングに投入して、集客力を伸ばすための施策に力を入れたい、というのが次のステップとしての大きな目標です。
倉橋:球団がさらに強いコミュニティを形成できる未来が見えるようで、素晴らしいビジョンですね。次のステップとしてのファンマーケティングへの取り組みにも期待が高まりますし、球団のさらなる成長がとても楽しみになりました。これからのご活躍を心から応援しています!本日は、貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、本当にありがとうございました!!
埼玉県警察本部少年課主催の「非行少年を生まない社会づくり(非行防止スポーツ教室)」に選手が講師として参加。ノックやフリーバッティングを行いながら中学生にアドバイスなどを行います。
スポンサー企業と秋葉の森総合公園にて自然保護活動及び親睦会の様子。親睦会では野球部のみなさんと キャッチボールやBBQを楽しみます。
会社概要
【事業内容】
BCリーグ運営ラインに沿った独立プロ野球球団としてリーグ公式戦の開催
・野球教室の企画・運営・開催、野球を軸にしたスポーツの普及と地域活性に準ずる各種教室の開催
・行政機関をはじめ各種地域各団体との連携事業の参加及び立案・企画・運営
【所在地】
〒360-0831 埼玉県熊谷市久保島939
(TEL)048-598-5634
(FAX)048-598-5694
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