キャッシュを増やす仕組み〈その3 検証によって見えてくる改善のポイント〉
目次
こんにちは、埼玉県川越市の税理士法人サム・ライズの林亜由美です。
時折吹く春風が、心地よく感じられる季節となりました。このぽかぽか陽気に、ついうたた寝に誘われてしまいます。
今年のお花見は例年通りとはいきませんが、道すがら咲いている花を見ていると、なんとなく心が華やかになりますね。
はじめに
さて、前回のブログでは、過去3年分のストラック図を詳しく分析する方法や、経営指標などの情報を収集する方法など、目標を設定するまでの流れをお話してきました。
みなさんの会社の目標も、設定していただけたでしょうか?
今回は、その目標の実現可能性を検証し、実際に具体的な手段などを考え、キャッシュを増やすための改善ポイントをまとめてみたいと思います。
なお、『キャッシュを増やす仕組み』についての記事は、今回の〈その3 検証によって見えてくる改善のポイント〉が最終回となります。
ぜひ最後までご一読いただき、みなさんの会社経営にお役立てください!
現状値と目標値の位置関係を把握する
前回のブログでA社は、下表のとおり目標を設定しました。
赤枠部分をご覧ください。
もしもこの目標とした数値があまりにも現実とかけ離れていれば、途中で挫折してしまうことにつながりかねません。
そうならないために、その目標値が無理な数値ではないかを検討する必要があります。
そのためにまずは、目標とした数値が、現在の数値と比べてどのあたりの位置にいるのかを把握することから始めましょう。
今回も、より感覚的に理解を深めるために、ストラック図を用いて考えていきます。
みなさんの会社の目標値もぜひお手元にご準備いただき、一緒にストラック図を作成してみてください。
目標とした数値でストラック図を作成する
先ほどの、A社が作成した表の中の目標値を、ストラック図に落とし込みます。
下図をご覧ください。
なお、ストラック図の上に記載している項目と数字は、前回のブログでA社が設定した目標値を転記したものです。
作成手順としては、このストラック図に赤色で表記した番号①~⑦の順に作成していきます。
では①から⑦までの計算式を順番にご説明しますね。
①売上高:一人当たり売上15,000千円×社員数70名=1,050,000千円
②限界利益:①売上高1,050,000千円×限界利益率63%=661,500千円
③変動費:①売上高1,050,000千円-②限界利益661,500千円=338,500千円
④経常利益:①売上高1,050,000千円×経常利益率8%=84,000千円
⑤固定費:②限界利益661,500千円-④経常利益84,000千円=577,500千円
⑥人件費:②限界利益661,500千円×労働分配率65%=429,975千円
⑦その他:⑤固定費577,500千円-⑥人件費429,975千円=147,525千円
…というように、数式の羅列になってしまいましたが、このように順番にやっていくと、パズルのような感じで完成させることができますよ。
では次に、現状のストラック図と目標値のストラック図を並べて、考えてみましょう。
目標値と現状値を比較して考える
前回のブログでも用いた現状値のストラック図と、先ほど作成した目標値のストラック図を並べると、下図のようになります。
左側が現状値のストラック図、右側が目標値のストラック図です。
赤色で表記しているように、限界利益率・経常利益率・労働分配率や、売上高の前期比率(つまり、目標値を現状値と比べた時の比率)なども書き込んでみてください。
こうすることで、目標とした数値が、現在の数値と比べてどのあたりの位置にいるのか、ということを把握しやすくなります。
例えば売上高の目標値は、前期比率129%となっており、金額にすると237,497千円アップしています。
また、限界利益率を見ると前期(=現状値)から3%だけのアップですが、限界利益の金額で考えると172,148千円のアップになります。
このように、経常利益や人件費についても、現状値と目標値の位置関係がどのようになっているのか、全体的に把握してみてください。
なお、比較する際に使う目標値は、必ずしも直近のものでなくても良いのですが、5年後や10年後などあまりにも未来すぎるものにしてしまうと、このあとの具体的なアクションプランが出てきません。
中長期的な目標ももちろん作成する必要があるのですが、今回のように現状値と比較する際には、1~2年の短期の目標値を使うようにしてくださいね。
実現可能性を検証する
さて、現状値と目標値の位置関係がつかめたところで、その目標値が実際に実現可能なのかどうか、検証する作業に入っていきます。
「検証」と言うと少し難しく感じる方もいらっしゃると思いますが、実はこの作業を行うことにより、『キャッシュを増やすための改善ポイント』が具体的に見えてくるのです。
早速、目標値のストラック図のブロックごとに検証を行いますが、どのブロックを改善するのが自社に合っているのかを考えながら、ぜひ一緒に検証作業に取り組んでみてください。
まずは、「人件費」のブロックから検証してみましょう。
人件費
このブロックでは、目標値で作成したストラック図の人件費が、本当に足りるのかどうかを見ていきたいと思います。
下図をご覧ください。
なお、ストラック図の上に記載している項目と数字は、前回のブログでA社が設定した目標値を転記したものです。
もともと一人当たりの人件費の目標値(ストラック図上の青枠部分)は@5,800千円と設定していましたので、この数値で、ストラック図の人件費合計額(=⑥)を割ってみます。
429,975÷5,800=約74
これはつまり、74人分の人件費になるということになり、目標としていた社員数(ストラック図上の黄枠部分)の70人分の人件費は確実に確保できる、ということが分かります。
ここで同時に考えていただきたいのが、売上高との関連性です。
例えば、このストラック図どおりに改善する場合の社員数と売上高を考えてみましょう。
・社員数:現状値60名→14名UP→目標値74名
・売上高:現状値812,503千円→237,497千円UP→目標値1,050,000千円
上記赤色下線部のように、増えた社員14名で、売上を237,497千円増やす必要がある、ということになります。そうなると、
増やす売上237,497千円÷増えた社員14名=16,964千円
つまり、一人当たり16,964千円売り上げなければならない、ということになります。
一方で、もともと一人当たり売上の目標値(ストラック図上の緑枠部分)は15,000千円と設定していましたよね。
ですので、もともとの目標値15,000千円を、先ほどストラック図から算出した数値16,964千円にまで引き上げることが可能かどうか、ということを考えなければなりません。
もし、引き上げることが難しいと判断した場合、以下のようなことを検討する必要があります。
・もともとの一人当たり売上目標額15,000千円が高すぎるのではないか。
・売り上げ目標を下げなければいけないのではないか。
・社員数を増やさなければいけないのではないか。
・社員数を増やす場合、一人当たり人件費の目標額5,800千円を下げなければいけないのではないか
・・・など。
このように、設定した目標値で具体的にシミュレーションすることによって、この目標値に無理があるのかないのかということが分かり、さらにこれから必要になってくる検討事項を洗い出すことができます。
同様に、人件費以外のブロックも検証し、今後必要な検討事項を洗い出してみましょう。
その他経費
次は、「その他経費」のブロックを検証します。
このブロックは、「社員数」と関連付けて見ていくことが必要になります。
以下に、「その他経費」と「社員数」を並べてみます。
・その他経費:現状値117,211千円→30,314千円UP→目標値147,525千円
・社員数:現状値60名→14名UP→目標値74名
すると、増えた社員14名分の「その他経費」が、30,314千円で足りるかどうか、ということを考えなくてはならないことが分かります。
具体的に言うと、例えば14名が活動するための旅費や携帯電話の通信費、さらには14名も増えると現在のオフィスが手狭になるため引っ越そう、ということになった場合は、引っ越し費用や引っ越しした後の家賃などを具体的に積算していくことになります。
その結果、これでは経費が足りないと判断した場合、以下のようなこと検討する必要があります。
・経常利益率の目標値8%が高すぎるのではないか
・経常利益率の目標値を死守する場合は、限界利益率をどのように上げていくか
・無駄な経費や削減できる経費はないか
・・・など。
特に、無駄な経費や削減できる経費がないかを見直すことは、多くの人に見落とされがちですが、実は『キャッシュを増やす』ためにとても重要なポイントになります。
具体的に言うと、「総勘定元帳」の経費の項目をひとつひとつ見ていくことや、家賃等の価格交渉をすることなどです。
この作業はとても細かく、見直しできたとしても小さいことだと思われるかもしれませんが、その小さな積み重ねが後に大きな利益となってきます。
ぜひ、事業計画を立てる際など、一年に一回は馬鹿にせずやってみてください!
経常利益
続いて、「経常利益」のブロックです。
このブロックでは、経常利益から差し引くことになるもの、つまりストラック図に含まれていない「特別損益」や「借入金」などとのバランスについて、以下のようなことを考える必要があります。
・大きな除却をするかもしれない固定資産がないか
・大きな損失を請け負わなければならないようなものはないか
・納税金や減価償却も加味したうえで、借入金の返済は可能かどうか
・・・など。
特に、利益と借入金のバランスについては、前々回のブログでもお話した通り、『キャッシュを増やす』ための重要なポイントになります。
ここはよりしっかりと、抜けのないように検証していきましょう。
限界利益
最期に、「限界利益」のブロックを検証していきます。
このブロックでは、どの要素で限界利益率をアップさせることができるのか、ということを考えていく必要があります。
限界利益率を上げるためには、以下2つのどちらかしかありません。
・売上高を上げる
・変動費(=原価や外注費)を下げる
ですが、原価や外注費を下げるということはなかなか難しいですよね。
そのため、売上高のどの要素をもって利益率をあげるのか、ということを検討しなければなりません。
具体的な方法としては、売上高の構成要素を分解して考えてみる、ということなのですが、ここでは分かりやすいように美容師の場合で考えてみましょう。
美容師の売上高は当然のことながら、客単価×数で構成されていますよね。
これを年間で考えると、客単価×数×頻度となります。つまり美容師の場合、同じお客様が一年間に何回来てくれるかというところが、売上にかなり影響してくる、ということになります。
このように、自社の売上の構成要素が、単価×数の他に何があって、そのうちどれを改善していけば一番売り上げが上がっていくのか、というところを考えてみてください。
ここでもう一つみなさんにお伝えしたいのが、売上高を上げる方法は値上げだけが全てではない、ということです。
具体的に言うと、利益率の良い商品を重ね売りする仕組みをしっかり作りこんだり、通販で送料無料だったところを有料に変更したり、考え方は様々あります。
また、市場価格調査も非常に重要です。
当たり前だと思って設定した値段が、実は高くなりすぎていたり、逆に安くなりすぎていたりして、売上に影響を及ぼすこともあります。
そうならないために、いわゆる流通価格の変化にも常に敏感になっておきましょう。
検証によって見えてくる改善のポイント
ここまで、ストラック図のブロックごとに細かく検証してきましたが、その結果、各ブロックの具体的な検討事項が見えてきましたね。
これらが全て、『キャッシュを増やすための改善ポイント』になります。
前回と前々回のブログでお伝えしたことも含めてまとめてみると、以下のように大きく分けて3項目になります。
『キャッシュを増やすための改善ポイント』
1.銀行借入条件を見直す
現在の『キャッシュ』に見合う返済額になるように、借入期間や利率が適正かどうか考えてみましょう。
2.無駄や削減できる経費はないか見直す
どんなに小さな経費でも見落とさずに、一年に一回は見直してください。後に必ず大きな利益となります!
3.利益改善できる施策はないか検討する
利益改善の方法は、値上げをするだけではありません。
売上高の構成要素を分解して考えたり、市場価格調査をしたりすることが重要です。
これらのポイント全てを、少しずつでも良いので複合的に組み合わせて実践してみましょう。
一つの項目だけで改善しようとするととても大変ですが、利益を出している仕組みを知っていれば、これらを複合的に組み合わせて改善していくことができますよ。
まとめ
さて、『キャッシュを増やす仕組み』について、3回に分けてお話してきましたが、いかがでしたでしょうか。
検討事項が多く、計算だらけで難しいと思われる方も多いかと思います。
ですが、この『キャッシュを増やす仕組み』さえしっかり押さえていただいて、きちんと数字で管理できれば必ずキャッシュは増えてきます。
時間も労力も必要ですが、努力を惜しまず、強い経営者・強い会社を目指しましょう!
今回も最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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