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キャッシュを増やす仕組み〈その2 ストラック図の分析と目標設定〉
目次
こんにちは、埼玉県川越市の税理士法人サム・ライズの林亜由美です。
冬もそろそろ終わりでしょうか、日脚も徐々に伸びてきましたね。三寒四温を繰り返しながら、日に日に春めいてきているのを感じる今日この頃です。
本格的な春の近いことを励みに、もうしばらくの寒さを乗り切りましょう!
はじめに
さて、前回のブログでは、いったいどれくらいの利益を出せば会社に『キャッシュ』が増えていくのか、ということを「ストラック図」を用いて視覚的・感覚的に知っていただきました。
みなさんの会社の「ストラック図」も作成していただけたでしょうか?
今回は、その「ストラック図」をより詳しく分析し、会社をもっと強くするためにはどう改善していくと良いのか、どこを目指すべきなのか、という目標設定についても考えていきたいと思います。
自社の現状を知る「ストラック図」の分析方法
前回のブログでは、A社の損益計算書と貸借対照表を例にして、利益と借入金のバランスが見えやすい「ストラック図」を作成しました。
今回は、今後の目標を設定しやすくするために、前回の「ストラック図」を一部組み替えて考えていきたいと思います。
「税引前当期利益」を「経常利益」に組み替える
組み換えの仕方をお話する前に、違いが分かりやすいよう前回と今回の「ストラック図」を以下に並べてみます。
今回組み替えているのは、上の図の赤字で表記している「利益」の部分です。
また、それに伴い「その他」の内容も変更するため、「固定費」全体の金額も変わります。
ではなぜ、「税引前当期利益」から「経常利益」へ組み替える必要があるのか、ということを解説するために、前回のブログでも用いた「損益計算書」をもう一度見てみましょう。
下表をご覧ください。
前回は、「税引前当期純利益」(表中では赤色枠)を用いることで、利益と借入金のバランスが見えやすい「ストラック図」にすることができました。
ところが、この「税引前当期純利益」には、「特別損失」(表中では黄色枠)が反映されています。
「特別損失」というのは、固定資産の売却や自然災害、盗難など、経営活動以外の特別な要因により、その年に突発的に発生した損益ですので、通常の営業活動の改善のためには影響させない方が良い数字です。
ですので、今後の改善策を探るための「ストラック図」には、「特別損失」を反映させる前の「経常利益」(表中では青色下線)に組み替えたほうが良い、ということになります。
では、組み替える部分と、その理由が分かったところで、もう一度先程の「ストラック図」に戻って、実際に組み替えてみましょう。
まずは一番右下の「利益」のブロックを「税引前当期利益」から「経常利益」へ組み替えます。
金額は、先ほどの損益計算書の「経常利益」の額(34,361千円)をそのまま当てはめます。
そして、「経常利益」の左側「限界利益」のブロックは前回から変わりませんので、この「限界利益」(489,352千円)から「経常利益」(34,361千円)を差し引いたものが、「固定費」全体の額(454,991千円)になります。
また、「人件費」の額も前回と変わりませんので、「固定費」全体の額(454,991千円)から「人件費」(337,780千円)を差し引いたものが、「その他」の額(117,211千円)になります。
こうすることで、「ストラック図」の組み換えが完了しました。
次項からは、この「ストラック図」をもとに、詳しく分析していきたいと思います。
「一人当たり」の数値に着目する
まずみなさんに調べていただきたいのが、今期末の「社員数」です。
今回用いる「ストラック図」の人件費の中には、役員報酬も含んでいますので、役員の数も含めた「社員数」を出してみてください。
この「社員数」を使って、「売上」「限界利益」「人件費」の一人当たりの数値を出していきます。
下図をご覧ください。
A社の今期末の社員数が、役員含め60名だとすると、「売上高」「限界利益」「人件費」それぞれの一人当たりの数値は、次のような数式になり、上記「ストラック図」では青色で表記しているものになります。
・「売上高」812,503千円÷60名=13,541千円
・「限界利益」489,352千円÷60名=8,155千円
・「人件費」337,780千円÷60名=5,629千円
そうすると、A社は、一人当たり13,541千円の売上を上げていて、粗利は一人当たり8,155千円で、人件費の平均額が5,629千円の会社だ、ということが分かってきます。
このように、一人当たりの数値を出してみると、一気にリアルさが増してきたと思いませんか?
また、先ほどは出しませんでしたが、一人当たりの「経常利益」なども算出してみると、実は面白いですよ。
例えば、一人当たりの「経常利益」が30万円だとすると、
「今年の社員旅行、みんなをハワイには連れていけないな…」
などということが分かるのです。
全体で考えるとたくさん出ているように見える「経常利益」でも、社員一人当たりで考えてみるということは、とても大事なことですね。
みなさんもぜひ、「一人当たり」に着目する癖をつけていただきたいと思います。
限界利益率・労働分配率・経常利益率に着目する
次に出していただきたいのは、「限界利益率」、「労働分配率」、「経常利益率」です。
再度「ストラック図」を使って、3つの指標を順にひとつずつ説明していきたいと思います。
下図をご覧ください。赤字で表記しているのが、今回算出する3つの指標になります。
・限界利益率=限界利益(489,352千円)÷売上高(812,503千円)=60%
この指標を算出することにより、A社は、売上高のうちどれだけの粗利を稼いでいる会社なのか、ということが分かります。
サービス業などの、売上原価(=変動費)のない業種であれば、売上高=限界利益となる場合もあるため、「限界利益率」が100%になることもありますね。
・労働分配率=人件費(337,780千円)÷限界利益(489,352千円)=69%
この指標を算出することにより、A社は、売上高から変動費(=原価)を差し引いた限界利益(=粗利)から、どれだけ社員に分配しているのか、ということが分かります。
会社にとって一番大きな利益である「粗利」から、人件費やその他の経費に分配して、最終的に「経常利益」を出していくのですが、この時、どれだけの粗利を人件費に分配しているのか、ということを見る指標になります。
・経常利益率…経常利益(34,361千円)÷売上高(812,503千円)=4.2%
この指標を算出することにより、A社が、売上高のうちの何パーセントを、最終的な利益として出せる会社なのか、ということが分かります。
その会社の基礎体力を示す指標とも言われていて、数値が大きいほど収益性が高い、と言えます。
では次に、これまでに算出した数値を過去3期分並べて、その推移を見ていきたいと思います。
過去3期分の推移を分析する
ここまで、一人当たりの数値や利益率等を、今期のストラック図から算出してきましたが、同様の作業を前期と前々期についても行います。
まずは、前期と前々期のストラック図を作ることから始めましょう。
そしてそれぞれの数値がでたら、それらすべてをまとめて一覧にします。
一覧にしたものが下表になります。
このように3期分並べると、3年間の推移が把握しやすくなりますよね。
早速各項目の推移を順に見ていきましょう。
・一人当たりの売上高、限界利益、人件費 及び
・社員数
A社の場合だと、売上高も限界利益も伸びている一方、人件費については少しずつ下がってきていますね。
けれど社員数は18期で一気に増えています。
これはどういうことかというと、16期や17期までは、中途採用で人件費単価の高い人たちを多く採用していましたが、18期からは人件費単価の低い新卒採用を増やすことができたため、その結果社員数は増えたものの人件費は減ってきている、ということなのです。
・限界利益率
16期と17期に比べると、18期はぐっと下がってきています。
これはどういうことかというと、次のようなことが原因だと考えられます。
システム開発を行っているA社はある時、大きなプロジェクトを受注しました。
けれどもこのプロジェクトに関しては自社の社員をあまり入れずに、外注を使うプロジェクトとなったのです。
そのことによって、外注費つまり原価(=変動費)が大きく膨らむことになり、その結果、限界利益率が下がることになったのです。
これをストラック図で見ると、次のように分かりやすくなります。
変動費(青色)が膨らむことで、売上高(黄色)に対する限界利益(赤色)の割合が減ってくる、ということです。
・労働分配率
こちらも年々少しずつ減ってきていることが見て取れますね。
これはやはり、人件費単価の低い新卒採用を積極的に取り入れることにより、人件費が抑えられたことが影響していると考えられます。
・経常利益率
こちらはこれまでとは逆に、年々少しずつ増えていっています。
実は16期のころ、A社は営業利益が赤字で、雑収入などを入れて何とか1.0%を出した、というところでした。
けれどもそこから様々な改善を重ねた結果が、今こうして数字に表れてきている、ということが分かります。
このように3期分を並べて分析してみることによって、ただ1期分だけの損益計算書だけでは見えなかった推移を見ることができます。
また、
「あの時にした行動が、今こうして数字に反映されているんだ」
という風に実感することができ、今後の目標を設定する際の大切な感覚になっていきます。
この感覚が新しいうちに、次は今後の目標を設定してみましょう。
会社をより強くするための目標設定
さて、前項までに算出してきた数値や指標をもとに、A社は次のような目標を設定しました。下表の赤枠部分です。
数値が大幅に上がっている項目もあれば、下がっている項目もありますね。
ではなぜA社はこのような目標を設定したのか、また、会社をより強くするための目標はどのように決めたら良いのか、ということを3つのポイントに絞って解説していきたいと思います。
ベンチマークを活用する
「ベンチマーク」とは、「比較の際の基準」を指す意味として様々な業界で用いられる言葉です。
経営分野では、優れた企業や競合他社を調査・分析して学習する、という考え方になります。
A社の場合、いつでも上場できる状態になることを目標としていますので、最近上場した同じ業界の会社の情報をベンチマークしています。
上場企業に関しては、インターネット上でも情報公開されていますので、みなさんも気になる企業の情報を検索してみてください。
そして公開されている情報をもとに、一人当たりの売上高や、限界利益率などを算出しましょう。
算出した数値を自社のものと比較すると、自社が今どのくらいの位置にいて、どのくらい上まで目指すことができるのか、ということを客観的に把握することができます。
経営指標や会計事務所を活用する
前項のベンチマークの他に、業種別に算出された「経営指標」もぜひ活用していただきたいと思います。
こちらも、インターネットで検索していただければ、いろんな人が、いろんな業種の経営指標について書いている記事を見ることができます。
その中でもみなさんに知っていただきたい経営指標に、BAST(バスト)というものがあります。
これは、TKC(ティーケーシー)という、会計事務所向けの会計ソフトを展開している会社が出している経営指標です。
かなり細かい業種別に指標が出されていますので、大変参考になることと思います。
このBASTのデータをもとに書かれた記事もありますので、以下のサイトなどをぜひご覧になり、参考になさってください。
また、インターネットなどで検索すること以外に、会計事務所に聞くことでも、同業他社の情報を知ることが可能です。
弊社も、「業種別業界情報」というものを持っておりますので、みなさんの業界の動向はどんな感じか、市場規模はどんな感じか、などをわかる範囲でお伝えすることができます。
よろしければ、私たちに気兼ねなくお尋ねくださいね。
直近目標と中長期目標、2つの目標の必要性
さて、これで目標を設定するための情報収集が完了しましたね。
ここからいよいよ目標を設定する作業になります。
これまでに収集した、ベンチマークや経営指標などの数値をもとに、自社の現状の数値をどのように変えていきたいのか、ということを考えてみてください。
ここでみなさんにお伝えしたいことは、直近の目標を立てると同時に、中長期的な目標も立ててほしい、ということです。
これは、事業計画を立てる時と同じ理由です。
中長期的な目標があることによって、単年度ごとにどこまで目指すべきなのか、という目標が明確になるからです。
また、事業計画と同様に、目標も毎年見直しましょう!
毎年毎年どうだったのか?と分析することで、経営改善へ向けての意識が働いてくるはずです。
そういう意識を持ち続けることが、経営改善への土台となる、一番重要な部分だと言えます。
そして、目標を設定して終わり、ではただの「絵に描いた餅」です!
そうならないためには、その目標が本当に実現可能なのかどうか、またその目標を達成するための具体的な手段などを検証する必要があります。
そこで、次回のブログでは、目標の実現可能性を検証する方法や、改善へ向けた具体的な手段などについて、お話していきたいと思います!
まとめ
ここまで、過去3年分のストラック図を詳しく分析する方法や、経営指標などの情報を収集する方法など、目標を設定するまでの流れをお話してきましたが、いかがでしたでしょうか。
今回は特に、入り組んだ数字の計算が多く、難しく感じられた方もいらっしゃるかもしれませんね。
けれども、自社の経営を数字で管理できるということは、とても強い武器になってくると思います。
数字に強ければ、会社のお金の流れをより正確に把握できます。
また、これから実現したいビジョンを具体的な数字に落とし込むことができるので、次の一手が見出しやすくなります。
ぜひ、数字に強い経営者になり、より良い会社を目指しましょう!
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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