アンゾフの成長マトリクスを分かりやすく解説します!~成長戦略を考えるためのフレームワーク~
目次
こんにちは、川越の税理士法人サム・ライズの林亜由美です。
雨降りの日が続きますが、紫陽花が雨に映える季節となりそれもまた風情を感じられていいものですね!季節の変わり目は体調を崩しやすいので、みなさんもどうかご自愛くださいね。
はじめに
昨今の新型コロナウイルス蔓延により、働き方や市場の在り方には大きな変化が求められています。
そんな中、これからの成長戦略をどう描けば良いのか、どういった視点から新しいビジネスを考えていけば良いのか、と悩まれている経営者の方はきっと多くいらっしゃることと思います。
それから、こういった苦境の時だけではなく、商売の調子が良い時こそ、本業以外にもうひとつ別の柱を立てようと検討する経営者の方も多くいらっしゃるでしょう。
そこで今回のブログでは、経営者のみなさんには必ず知っておいていただきたい、成長戦略を考えるための方法のひとつ『アンゾフの成長マトリクス』について、分かりやすく解説したいと思います!
ぜひ最後までご一読いただき、みなさんの会社経営にお役立てください!
アンゾフの成長マトリクスとは?
ところでみなさんは、『アンゾフの成長マトリクス』という言葉を聞いたことがありますか?
「経営戦略の父」とも言われる経営学者イゴール・アンゾフ氏(1918-2002)によって提唱された、成長戦略を考えるためのフレームワークです。
具体的には、下のようなマトリクスの図になっています。
まず横軸に【商品軸】があります。こちらは、自社の技術を指します。
次に縦軸には【市場軸】があります。こちらは、自社の顧客を指します。
そしてそれぞれの軸が「既存」のマスと「新規」のマスに分かれており、分かれたマスはそれぞれ「市場浸透戦略」「新製品開発戦略」「新市場開拓戦略」「多角化戦略」と位置付けられています。
これら4つのマスに従って、どんな戦略で事業拡大していくかということを探索していくわけなのですが、その前に、みなさんにぜひ知っておいていただきたいポイントが2つあります。
自社の強みが「技術」か「顧客」のどちらなのかを把握する
1つ目のポイントは、自社が成長するためには「技術」か「顧客」のどちらを伸ばした方良いのか、ということをしっかりと把握しておくことです。
今後の事業展開の軸となっていきますので、「自社の強み」がどちらであるのかしっかりと見極めるようにしましょう。
「技術」か「顧客」のどちらかを軸にする
2つ目のポイントは、「技術」か「顧客」のうち、必ずどちらかひとつを軸にして事業展開していくことが大切、ということです。
軸にする方はもちろん、1つ目のポイントで見極めた「自社の強み」となる方です。
例えば、お客様との結びつきが強いビジネスの場合は、今のお客様に新しい商品を提供していく、ということが成長戦略のカギとなっていきます。
逆に、商品の技術力が強いということであれば、その技術をもって新しい市場に展開していく、ということが大切になりますね。
さてここまで、「アンゾフの成長マトリクス」とはどういったものなのか、大まかにお伝えしてきました。
次項からはマトリクスの4つのマスについて、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
市場浸透戦略
まずは左上の「市場浸透」のマスから見ていきます。
こちらのマスは、既存の商品と既存の市場の掛け合わせになります。
つまり今のお客様に、今みなさんが提供している商品や扱っているサービスをもっと買っていただく、という戦略になります。
商品も市場も既存のものですので、4つのマスの中では最もリスクが低く、事業展開していきやすい分野と言えますね。
では早速、具体的な施策を考えていきましょう。
市場浸透戦略における8つの視点
「市場浸透戦略」で具体的な施策を考えるにあたって、ぜひ着目していただきたい視点が、以下のとおり8つあります。
【視点1】顧客層や商品を絞り込む
【視点2】成長の兆しがある顧客層や商品に重点を置くことを検討する
【視点3】今までと違った販売方法を検討する
【視点4】商品に新しい機能を追加する
【視点5】付随機能(基本品質以外の機能・アクセサリー・付帯サービス)の大胆な向上を検討する
【視点6】価格競争力や商品の品ぞろえを大胆に強くする
【視点7】新しい方式での事業展開を検討する
【視点8】キーマンやオピニオンリーダーによる、認知率アップやブランディングをはかる
実際の事例としては、以下のような施策があげられます。
・化粧品会社:40代以上の女性をターゲットに高価格帯の化粧品を展開したり、もっと若い世代をターゲットにプチプラの化粧品を展開したりする(【視点1、2】)
・飲食店:テイクアウトや通販、オンラインレストランなどを新たに始める(【視点3】)
・ネット通販会社:購入手続きをする際の画面で「この商品を買う人はこんな商品も買っています」などといった他の商品を紹介する機能を追加する(【視点4】)
・出版社:雑誌の付録を豪華なものにする(【視点5】)
・印刷会社:プリントパックなどの印刷通販を始める(【移転6】)
これら8つの視点で施策を考えることにより、顧客一人当たりの購入数を増やしたり、購入頻度を高めたりして、高い成長性や収益性を実現することができます。
その結果、現在の事業分野で競合に勝ち、シェア拡大が図れるのです。
新商品開発戦略
次は右上の「新商品開発」のマスを見ていきましょう。
こちらのマスは、新規の商品と既存の市場の掛け合わせになります。
つまり、新しい商品を開発して、今のお客様に買ってもらう、という戦略になります。
新しい商品を開発するにあたって、施設や設備・従業員など新たに投資を進めていくことになるため、そのリスクは「市場浸透戦略」よりも高いと言えます。
では、具体的な施策を考えるにあたってどのような視点が必要なのでしょうか。
新商品開発戦略における5つの視点
「新商品開発戦略」では、以下の5つの視点に着目してみてください。
【視点1】顧客が自社商品と同時に、あるいは前後に利用する商品はないか検討する
【視点2】顧客からの、商品・サービスの不満を聞き漏らさない
【視点3】新たに取り扱うことで現商品と相乗効果の高い商品・サービスはないか検討する
【視点4】M&Aや提携することで新たに保有できた商品や技術により、新商品開発ができないか検討する
【視点5】現商品の機能で、不要・過剰なものを削除し価格を下げることで、販売数量が増えないか検討する
実際の事例としては、
・衣料品店:服だけでなくハンガーも販売したり、革靴の購入時にクリーナー関係の商品を勧めたりする(【視点1】)
・ゲーム会社:既存のゲーム機本体に対して、不要・過剰なものを削除したコンパクト版を低価格で販売する(【視点5】)
などがあげられます。
これらの視点により、顧客ニーズにマッチした新商品開発や、類似・競合商品を意図した独自性、または強い差別化要因のある施策を考えることができるようになります。
新市場開拓戦略
続いて、左下の「新市場開拓」のマスを見ていきましょう。
こちらのマスは、新規の市場と既存の商品の掛け合わせになります。
つまり、今の商品を新しい市場に持っていき、新しいお客様を開拓しようという戦略になります。
これまで未開拓だった市場を見極めなければなりませんので、より専門的な調査や分析が必要になります。そのためこの分野も、「市場浸透戦略」よりもリスクが高いと言えます。
そんな「新市場開拓戦略」で注目していただきたいのが、「新市場」には2つの考え方がある、ということです。
1つ目は、地理的に新しい市場という考え方で、例えばニーズのある所へ営業拠点を移したりエリアを広げたり、というイメージです。
2つ目は、地理的には同じであっても、年齢や性別などで分けられた顧客の区分(=顧客セグメント)を広げるという考え方で、例えば男性向け商品を女性向けに、子供向け商品を大人向けにターゲットを変更する、というイメージです。
では、この2つの考え方に注目しながら、具体的な施策を考えるにあたってどのような視点があるのか、次項で詳しく見ていきたいと思います。
新市場開拓戦略における7つの視点
「新市場開拓戦略」では、以下の7つの視点に着目してみてください。
【視点1】新しい販売ルートの開拓を検討する
【視点2】営業拠点の移転や新設、新エリアへの進出を検討する
【視点3】関連の有無に関らず、極めて成長性の高い事業分野に少しでも関連する事はできないか検討する
【視点4】M&Aによって新規顧客の獲得・新規エリア進出ができないか検討する
【視点5】まだ業界の顧客になっていない買い手のニーズに応えて新たな市場を開拓できないか?
【視点6】購入・利用の目的が同じ業界の市場を取り込めないか
【視点7】商品・サービスの機能を大胆に取り除き、コスト革命を起こす事で新たな市場を開拓できないか?
実際の事例としては、以下のような施策があげられます。
・自動車メーカーなどの海外進出(【視点1、2】)
・精密化学メーカーが既存の技術を生かし、新たに液晶用フィルムや携帯電話用プラスチックレンズを提供する(【視点5】)
・「火をつける」という目的が同じマッチの市場を、ライターの市場に取り込む(【視点6】)
これらの視点により、新しいエリアやターゲット、またはこれまでにアプローチしてこなかった市場の開拓をしていきましょう!
多角化戦略
最後に、右下の「多角化」のマスを見ていきましょう。
こちらのマスは、新規の市場と新規の商品の掛け合わせになります。
つまり、新しい商品を開発し、新しい市場に展開していこう、という戦略になります。
市場も商品もゼロからのスタートになるため、時間もコストもかかりますので、4つのマトリクスの中で最もリスクが高い分野と言えます。
では、具体的にどのような施策があるのでしょうか。
多角化戦略における4つの視点
「多角化戦略」で具体的な施策を考えるにあたって、ぜひ注目していただきたいのが、以下の4つの視点です。
【視点1】自社の経営資源が生かせて独自性を発揮できる業界に進出できないか?
【視点2】自社が属する産業の、川上業界または川下業界への進出によって成長できないか?
【視点3】M&Aによって自社の経営資源も生かせる新事業進出ができないか?
【視点4】優良なフランチャイズチェーンに加盟して新事業進出ができないか?
実際の事例としては、以下のような施策があげられます。
・完成車メーカー:原料調達や部品製造に関わったり(上流業界)、販売会社を作ったり(下流業界)する(【視点2】)
・フィルムメーカー:関連するコア技術を活かして化粧品を製造する(【視点3】)
・ワイナリー:主要顧客が関連するブライダル事業を手掛ける(【視点3】)
これらの視点により、新規市場で新規事業を展開できるようになるだけでなく、自社の既存事業の衰退に備えるためのリスク分散も期待できます。
まとめ
今回は、成長戦略を考えるための「アンゾフの成長マトリクス」について詳しく解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
前述の事例にあげた大企業のように、既存の技術を活かしたり、海外進出したりして様々な事業展開を図ることは、中小企業にとってはなかなか難しいかもしれません。
けれども、自社の強みが「顧客」なのか「技術」なのか、それを明確に見極めることが事業拡大への最も重要なところになっていきます。
特にコロナ禍の今は、成長戦略の検討を急務としている会社はたくさんありますよね。
ぜひ、今回お伝えした視点を存分に駆使していただき、収益拡大の可能性を検討してみてください!
今回も最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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