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【医療機関専用】病院・クリニックのインボイス制度への対応、注意点とは
目次
その悪評はともかく、2023年10月1日からインボイス制度がスタートし、すでに適格請求書発行事業者に登録した医療機関もあれば、対応に苦慮している医療機関もあると思います。
本記事では、いまだにインボイス制度への対応を悩んでいる病院やクリニックの方に、制度の基本的な中身や、対応を判断するための考え方について詳しく解説します。
病院やクリニックとインボイス制度の関係
病院やクリニックの収入の多くは、公的医療保険でカバーされる社会保険診療で、消費税法では非課税とされています。
そもそも消費税を収めなければならない課税事業者とは、課税売上が1,000万円を超える事業者なので、社会保険診療だけが収入の病院やクリニックにとって「インボイス制度」は関係のないものです。
しかし健康診断や予防接種など、消費税の課税売上がある場合には無関係とはいえないので、病院やクリニックと消費税の関係について知っておきましょう。
インボイス制度の概略
もう始まっているインボイス制度ですが、この制度の基本を知らなければ何も考えることができません。
インボイス制度が始まる前から多くの報道がされていたので、大体の内容は知っている方が多いでしょう。
この制度の影響を受けるのは消費税の課税事業者だけであり、病院やクリニックを受診される個人の方は関係のないものです。
消費税の課税事業者は、基本的には受取った消費税と支払った消費税の差額を納税するのですが、インボイス制度で問題になるのは「支払った消費税」についての扱いです。
2023年9月30日までは、仕入や経費で支払った消費税は事業者への支払いであれば100%「支払った消費税」として認められていたのですが、2023年10月1日以降は適格請求書(インボイス)がなければ原則仕入課税として認められなくなりました。
このインボイスを発行できるのは、登録番号を取得して課税事業者となり、適格請求書発行事業者となった事業者だけです。
つまり消費税の課税事業者でない場合、あえて選択しなければ関係のない制度といえます。
病院やクリニックの課税売上とは?
病院やクリニックなどの医療機関は、消費税が課税されない社会保険診療が収益の中心です。
消費税の申告・納税を免除されているのは、消費税が課される売上が1,000万円以下の事業者ですが、病院やクリニックなど医療機関の約7割が免税事業者となっています。
それでは、医療機関で消費税の課される収入とは、どのようなものがあるのかといえば、主なものは以下の収入です。
- ワクチンなどの予防接種
- 健康診断や人間ドック
- インプラントやホワイトニング
- 美容整形手術
- 入院のときの差額ベッド代
一般的に「自由診療(保険適用外診療)」と言われるものですが、このような収入が1,000万円以上あれば、医療機関であっても消費税の課税事業者になります。
消費税の課税事業者だった場合の対応
先ほど説明した自由診療収入が1,000万円以上ある病院やクリニックなどは、すでに消費税の課税事業者になっているでしょう。
その場合は、インボイスの登録事業者になるマイナス面は一切ないので、迷わず登録すべきです。
ただ、実際の業務においてインボイスの発行が必要かどうかは、病院やクリニックの利用者によります。
例えばインプラント治療を行っていて課税事業者になっている歯科医院では、患者様は個人しかいないでしょう。
そのようなケースでは、インボイスを発行しなくて済むので、システム改修などの設備投資は必要なく、登録事業者になるだけで事足ります。
消費税と無縁だった医療機関の考えるべきこと
自由診療収入が1,000万円以下で、今まで消費税の申告と無縁だった医療機関の場合、インボイス制度をどのように考えれば良いのでしょうか。
利用される患者様が個人だけであれば気にする必要はありませんが、企業から健康診断や予防接種を受託しているようなケースではインボイスの発行を求められることが考えられます。
インボイスの発行は、適格請求書発行事業者として登録した病院やクリニックしか出来ないので、課税事業者にならなければなりません。
企業からの受託業務のボリュームにもよりますが、もし少ないようなら値引き対応や、最悪「受託収入がなくなる」ことも考えておきましょう。
課税事業者になることを検討する場合の注意点
今まで消費税の免税事業者であった病院やクリニックの経営者様で、企業相手の収入を維持するため適格請求書発行事業者として登録を検討する場合の注意点について考えてみましょう。
メリットとデメリットを比較検討する
免税事業者だった病院やクリニックが、課税事業者になってまで適格請求書発行事業者になるメリットとデメリットについて検討してみます。
考えられるメリットは、企業からの受託収入を失う恐れがなくなるという、その一点だけです。
つまり企業からの受託収入額を考え、デメリットと比較しなければなりません。
そのデメリットとは、今まで納税する必要のなかった消費税を支払うことです。
例えば年間500万円の自由診療収入があったとすれば、受け取っているとされる消費税額は以下のとおりの計算となります。
※受取消費税額=500万円÷(110/100)×10%=454,545円
もちろん全てを納税するわけではありませんが、インボイス制度へ登録すると実質的な減収となることは確かです。
本則課税と簡易課税
消費税の計算方法には2種類あって、一般的に「本則課税」と「簡易課税」と呼ばれている2つの方法です。
消費税の課税事業者になった場合、届出をしない限り本則課税となり、課税収入対する消費税額から、仕入に対する消費税額を差し引いて消費税額を算出します。
例えばインフルエンザの予防接種を3,300円で実施し、そのワクチンを2,200円で仕入れていた場合、以下のとおりの納税額となります。
※納付すべき消費税額=300円(受け取った消費税)-200円(仕入控除税額)=100円
これに対して簡易課税では、業種に応じた下表のみなし仕入率を乗じて簡易に消費税額を計算します。
事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
第1種事業 | 10% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業) |
第2種事業 | 20% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) |
第3種事業 | 30% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます |
第4種事業 | 40% | 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。 |
第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除きます |
第6種事業 | 60% | 不動産業 |
引用:国税庁
病院やクリニックなどの医療機関は、第5種事業とされるので受け取った消費税額の50%をみなし仕入率として計算します。
つまり先ほど例示したインフルエンザの予防接種のケースでは、150円の納付税額となり本則課税より損です。
しかし健康診断など課税仕入れをほとんど伴わない収入の場合は、簡易課税の方が得なので、どちらの方法を選択するかは税理士に相談しましょう。
事務方の負担増加も考えましょう
すでに始まっているインボイス制度ですが、企業における事務方の負担増加が問題視されています。
とくに本則課税を選択している事業者は、インボイスを発行する業務より、支払いにより受け取ったインボイスの確認作業で混乱しているのが現実です。
病院やクリニックが適格請求書発行事業者となる場合でも、今より事務方の負担が増えることは考えるべきでしょう。
また必要に応じてシステムの回収など、費用負担の発生もあるので、損得だけでは判断できないこともあります。
まとめ
賛否の声というより、ほとんど否定的な意見が多かったインボイス制度ですが、2023年10月1日からスタートしてしまいました。
病院やクリニックは、他の業種ほどの影響はないと考えられます。
とはいえ収入に占める自由診療の割合が多ければ、インボイス制度への対応も検討しなければなりません。
医療機関経営にも関わる問題なので、税負担だけにとらわれずトータルな判断を税理士などの専門家を交えて考えてみましょう。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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