リーダーシップへの舞台裏Vol.7 ~今を駆ける社長のインタビューシリーズ~
目次
誰もが幸せに暮らせる地域を目指して―
強い信念と使命感が武器の、
障がい者福祉界のエキスパート
「まさか自分が起業することになるなんて」と語る大野代表理事。起業するだけでなく、18年という長きにわたり、常に発展し続けてこられた秘訣は一体何なのでしょうか。優しくて温かなイメージの事業内容とは対照的な、熱のこもったパワフルなお話を伺いました!
【プロフィール】
1969年 神奈川県茅ケ崎市生まれ。
幼少期は、父の転勤で大阪府・東京都を経て埼玉県狭山市にてのびのびと育つ。
短大卒業後に入社した精密機器メーカーでは生産管理・営業・庶務を担当し、社会人としての基礎と経験を培う中、結婚・出産・育休後に復帰するも「自分の力で成果を感じられる仕事がしたい」と12年半勤めたメーカーを退職。
その後職業能力開発センターで介護技術を習得すると、2003年に生活サポート事業所に入職し、知的障がい児者支援の仕事に出会う。 2007年3月に同事業所を退職後すぐ、4月に「ほっとサポートてんとうむし」を開設。同年7月にNPO法人化し現在に至る。
プライベートでは、「旅をする木」「風と共に去りぬ」「覚悟の磨き方」などを愛読するほか、家族とのオートキャンプや温泉旅行も楽しむ。
準備期間わずか3週間…
それでも諦めなかった理由
林:さて、第7回目となる今回ご登場いただくのは、特定非営利活動法人ほっとサポートてんとうむしの代表理事、大野明子さんです!早速ですが、大野代表理事の会社の概要と、事業内容をお話しいただけますか?
大野:はい。私が代表理事を務めているのは、特定非営利活動法人ほっとサポートてんとうむしという団体で、2007年4月1日に障がい者生活サポート事業所として川越市に設立しました。その後7月24日にNPO法人化しまして、この春で18周年になります。
事業としましては、主に知的障がいをお持ちの方に向けて、あたたかな居場所をつくるという理念のもとに、行動援護・移動支援・相談支援・放課後等デイサービス・児童発達支援、生活介護、就労継続支援B型と、地域での生活を総合的に支援する福祉サービスを提供しています。2020年にスタートした通所施設では、利用者さんとひまわりを育てて種を絞った「ひまわり油」や「石鹸」、そして「キッシュ」を製造・販売しています。現在は8事業を、川越市内の4拠点で運営していて、利用者(会員)数は約350名、職員が50名(常勤30名非常勤20名)、サポーター(※登録制有償ボランティア)が12名となりました。
林:大所帯になりましたよね。
大野:はい。でも、設立当初はこんなに大きくなると思っていなかったんです。
というのも、実は設立までの準備期間がわずか3週間という、勢いで立ち上げた法人だったので(笑)。当初は私と職員1名とサポーター3名のみで、本当に無我夢中でやっていましたね。
林:なぜ3週間で立ち上げることになったのでしょうか?
大野:当時、別の生活サポート事業所に勤めていたのですが、そこを退職するという流れが2007年の2月末に急に決まったんです。翌3月初めには、正式な退職日が3月31日ということに決まったので、そこから次の職探しを始めました。
同じ頃、当時担当していた利用者さんの保護者のみなさんに、退職することになったとご挨拶したところ、泣いてくれる保護者さんもいらっしゃるほどみなさん惜しんでくださって…なんだか離れがたくなってしまったんですよね。
それで考えてみると、当時勤めていた事業所のようなサービスができる事業体というのが、川越市内では2件ぐらいしかないことに気が付きまして。それで、「これは私がやるしかない!」と決心したのが3月10日頃でした(笑)。急に辞めることで利用者さんに迷惑をかけることになるので、絶対に切れ目なくサービスを提供したい、という思いがありましたので、3月31日に退職するなら4月1日から認可をとってサービスを始めようと考えました。そのため、3週間というかなり短い準備期間となってしまったんです。
その間、前職の仕事もしながら、有休の消化をさせていただき準備しながら、新しい社名も考えながら…常に動きながら考えていました(笑)。起業に関する準備も知識も無い中でやっていたので、いろいろと遠回りしましたが、今となっては、勢いって本当に大事だったな、と思いますね。
林:勢い、本当に大事ですよね!大野代表理事がおっしゃると、すごく説得力があります。ところで、動きながら考えたという社名には、どのような由来があるのでしょうか?
大野:聞いてくださりありがとうございます!まずは、前職の事業所名に「サポート」という言葉が使われていて、よく“サポートさん”という愛称で呼ばれていたので、「サポート」は絶対に使いたいと思っていました。
もう一つは、字を読めない利用者さんにも認知してもらうために、老若男女みんなが知っていて、ロゴマークにもできるものをと考えた時に、突然「てんとうむし」というのが降りてきまして。最後にゴロ合わせで「ほっと」をつけて、「ほっとサポートてんとうむし」となった時に、これしかない!と思ったんです。
それから後日談になりますが、実は当時の私のラッキーカラーが赤と黒だったみたいで …そのことを知った時には鳥肌が立ちましたね(笑)。
林:すごい、ぴったり!やはり神様がちゃんとアイデアを降らせてくれるんですね!
あの時、行動していなかったら― 出会うべくして出会った、
知的障がい福祉の世界
林:そうやって神様をも味方につけてしまう大野代表理事ですが、前職も今と同じ職種だったそうですね。福祉の世界には、子どもの頃から興味があったのでしょうか?
大野:いえ、全くありませんでした。
ましてや、自分が起業することになるなんて思ってもいませんでしたね。当時は、女性が社会進出する夢を抱ける時代では無かったので、私も学校を卒業してちょっと働いて結婚したら家に入る、みたいなイメージを持っていました。実際に、短大を卒業して精密機械のメーカーに入って結婚して…特に何かをしたいという思いも無く、結局は新卒で入社したメーカーで12年半ぐらい勤めました。
林:そうだったんですね。そのメーカーでは、どんなお仕事をされていたのでしょうか?
大野:最初は生産管理に配属されました。少し経つと、営業アシスタントの仕事を任されるようになったのですが、今思えばそこで、マナーやコミュニケーション力、事業計画、収入や支出について等、ビジネスの基本知識を学ばせていただきました。
それから結婚して、出産後は育休を取得したのですが、復帰してみると、庶務に配属されたんです。メーカー企業の庶務というと、歯車の中のひとつというか、自分がいなくても回っていくというイメージがあったので、復帰してからはやりがいをなくしてしまって。その頃から、心のどこかで、誰かの役にたてる、自分の力で何か成果を感じられる仕事がしたい、何か手に職をつけたい、と思うようになり、結局12年半勤めたメーカーを退職することにしたんです。
当時、ちょうど介護保険制度が始まったということもあり、住環境福祉コーディネーターという仕事に憧れるようになっていましたので、退職後は職業訓練校に行きました。そこで、住環境福祉コーディネーターの上位資格である2級建築士の訓練校を受験したのですが不合格で…その後、ヘルパー1級という訓練校を見つけたことで、まずは福祉を学んでから住環境福祉コーディネーターを目指そう!というプランに切り替えることにしたんです。ヘルパー1級の訓練校には運良く合格して、そこで仕事を探すことになったのですが、一旦は介護現場やケアマネジメントも学んでおきたいと思い、介護職員としての就職活動を始めました。ところが、高齢者福祉の範囲ではなかなか採用までこぎつけず…というのも、正社員が良ければ夜勤有り、日勤のみならパート枠で、という求人ばかりだったんです。当時、まだ幼い娘がいましたので、夜勤をするわけにもいかず、かといって、これまでずっと正社員として働いてきたというプライドがあったので、パートはどうしても避けたいと思っていました。
そこで、さらに範囲を広げて職探しをしたところ、前職の職場にたどり着いたんです。最初こそ、「障がい児者生活サポートって何だろう?」と思っていましたが、日勤で正社員という条件も合っていたし、受けないと仕事が決まらないと思い、応募してみると運良く採用していただけました。これが、知的障がい福祉の世界との出会いです。
林:きっかけは住環境福祉コーディネーターに憧れたことからということでしたが、結局は高齢者福祉ではなく、障がい福祉の道に落ち着かれたのですね。
大野:そうですね。今でいうと、“沼にはまる” と言う感じで、知的障がいの方に向けた支援という世界の魅力にあっという間にはまってしまって、結局、当初目指していたような高齢者福祉の道へ戻ることはありませんでした。
林:素敵ですね!大野代表理事が沼にはまるほどの魅力とは、一体何なのでしょうか?
大野:知的障がいのある方たちって、大変さはいろいろと持っていらっしゃるけれど、その分守ってあげたいと思うし、何よりみなさんすごく純粋で裏表なく、単純に好きか嫌いかで接してくれるんです。なので当時、経歴や肩書もない全くのド素人だった私のことも受け入れてくれて、好きになってくれて…保護者の方も本当に喜んでくれるので、頑張った分が全部返ってくる、というような魅力がありますね。
林:大野代表理事の言葉一つ一つが実体験を伴ったものなので、本当に心を動かされますね。
18年間で職員・サポータの方を含め、60人規模のNPO法人へ成長。 10年以上勤めているベテラン職員のみなさんも多く、利用者さんからの信頼が次々と次の紹介へと繋がっているのだとか。
苦楽を共にした仲間と叶えたい “新たなビジョン”
林:そんな魅力にはまって18年やってこられた大野代表理事ですが、これまでに苦しかったことや大変だった時のお話をお聞かせください。
大野:やはり苦労するのはいつも物件探しですね。今でこそ、ようやく時代が追い付いてきたという感じですが、当時は障がいのある方たちが地域に受け入れられる、というのが本当に難しかったんです。しかも、当時はインターネットがまだ普及していなかったので、実際に現地に行ってみたり、電話してみたり、でも事業内容を話すと99%断られる、という状態でした。なので、新しい事業を始めたいと思っても、物件が無いからできない …という時代が、最初の7~8年間ぐらいありましたね。
林:弊社でも、障がい者福祉の法人様を担当させていただくことが多いのですが、やはり同じように物件探しにはものすごく苦労されていますね。
大野:結局うちは運良くご縁が繋がって、障がいのあるお子さんをお持ちの方がオーナーでいらっしゃる物件を紹介していただくことができました。ただ、その物件の契約ができたのが3月30日で(笑)。それでも何とか、翌日には川越市役所の障害者福祉課で事業所申請しまして、無事に4月1日からの認可が下りたんです。「やったー!」という感じでしたね(笑)。
今後は、「利用者の方が豊かに暮らす」にスポットを当て、職場提供の機会や、健康・食事のあり方から新事業を考案中なのだそうです。本当に素晴らしい行動力!
林:すごいなぁ、この話を聞くと、何事も絶対にあきらめなければ叶えられるんだと思えますね!それでは逆に、これまでの中で一番嬉しかったことって何でしょう?
大野:やはり、2020年に通所施設を開設したことで、利用者(子どもたち)の成長をずっと一緒に見ていられるようになったことですね。それまでは、放課後等デイサービスを卒業した子たちとはお別れせざるを得なかったのですが、通所施設ができたことで、卒業後も引き続き通所施設に入所して、そこで働いてくれるようになったんです。
こんな風に、ずーっと保護者さんと仲間と一緒に成長を見ていられるということは本当に嬉しいし、うちの法人独自の良さだなぁと思っています。
林:利用してくれている子たちの成長とともに法人の成長もあるというのは、本当に幸せなことですよね。いやぁ、感動しちゃいました!そんな苦楽を共にする職員さんやサポーターさんの中には、長くお勤めの方が多くいらっしゃるそうですね。いわゆる“福祉マインド”をお持ちの方ばかりではないと思うのですが、一体、どのような教育をされているのでしょうか?
大野:教育というととても難しいのですが、職員やサポーターには、利用者さんやご家族の幸せに寄り添うことをしつつ、自分たちの生活や人生も幸せにして長く働いていただきたいという思いはあります。
ただ、何を幸せと思うか、何を働き甲斐と思うかは人によって違いますよね。そこは、うちの法人としては、利用者さんやそのご家族が幸せに感じてくれるサービスを提供することが自分の幸せだという風に思ってくれたらいいな、と思っています。
でもそういうことを私が直接言うだけではなく、利用者さんやその保護者さんだったり、市役所のケースワーカーさんや学校の先生、相談支援センター等の職員さんだったり、そういった周りの方々から「てんとうむしさんだったら間違いないですよ」とか「てんとうむしさんだから預けたい」という言葉を聞くことによって、その心持ちが浸透しているのではないかな、と思うんです。
社内的な教育というよりは、周りで支えてくださっているみなさんからの期待や信頼が、職員やサポーターの働き甲斐や幸せ感となって、この法人に長くつなぎとめてくれているんだと思います。
林:なるほど。自然な形で“福祉マインド”が浸透していく環境があるのですね。
そんな素晴らしい職員さんやサポーターさんと一緒に、これからやっていきたいと思っていることはありますか?
大野:はい。簡単に言うと、“ウェルネス事業” というイメージなのですが、障がいをお持ちの方たちの健康への支援で、食事や運動面で専門的なアドバイスを受けられたり、そういう環境を提供する事業はできないかと、今模索しているところです。
ただ、今までにありそうでなかった分野なので、参考にできるモデルはないか、ぐるぐるぐるぐる考えています。
林:確かに、今までにありそうでなかった分野ですね!でも、大野代表理事がそれを頭に思い描いているということは、近い将来実現するんだろうなと私は楽しみにしています。社名のように、きっと絶妙なタイミングでアイデアが降りてくるのではないでしょうか(笑)。それでは最後に、これから起業や独立をしようと思っている人へ向けてアドバイスするとしたら、一番大事なことは何なのか、ぜひお聞かせください!
大野:はい。まずは、起業しようと思った自分のひらめきや思いを信じて、とにかく進むというのは大事かなと思います。
それから、人とのご縁です。私の場合は利用者さんのご家族からの期待と信頼がベースにあったことと、一緒についてきてくれる仲間がいたこと、そして無条件に応援してくれる家族の存在は大事だと思います。やはり一番大事なのは、そういうご縁ある方々のために、自分を信じて前進することだと思います!
林:そうですよね。実際に、今お話を聞いているだけでも、大野代表理事のその信念の強さというものが、ひしひしと伝わってきます。ということで、今回のインタビューもあっという間に終わってしまいました。大野代表理事には、こちらまで思わず熱くなってしまうようなお話をたくさん聞かせていただきました!本当にありがとうございました!
会社概要
【会社名】特定非営利活動法人 ほっとサポートてんとうむし
【事業内容】障がい福祉サービス事業・障がい児通所支援事業・相談支援事業・障がい者自立支援事業・研修事業・地域交流推進事業
【所在地】〒350-0036 埼玉県川越市小仙波町4-11-12
(TEl)049-226-0660(受付時間 10:00~17:00)
【HP】https://h-tentoumushi.jp/
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