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【個人事業主向け】インボイス制度後の確定申告の変更点について税理士が解説します。
目次
インボイス制度が始まり、これまで消費税の納税が免除されていた課税売上高1,000万円以下の事業者でも、課税事業者になった方は多いのではないでしょうか。
また、今はまだ免税事業者であっても、仕事の関係上インボイスへの登録を悩んでいる方もいると思います。
本記事では、インボイス制度開始後の確定申告について、消費税を中心に変更点や注意点を税理士が解説します。
インボイス制度によって確定申告が大きく変わったこと
インボイス制度のポイントは、消費税の計算における仕入税額控除の要件が変わったことにより、インボイスの保存が求められたことです。
厄介なことに、インボイスを発行できるのは消費税の課税事業者であることが必要で、仕方なくインボイス登録した方にとって確定申告も面倒になりました。
そこで免税事業者から課税事業者になった方の確定申告を中心に、気を付けるべき点を説明していきます。
インボイス登録した方への影響
インボイス制度が始まる前は、課税売上高1,000万円以下の事業者は消費税とは関係がありませんでした。
ところが仕事の発注者サイドから登録を求められるなどして、新たにインボイス登録した事業者は所得税の確定申告に加え、消費税の確定申告もしなければなりません。
つまり消費税の納税だけではなく、申告するための手間が増えるわけで、今まで免税事業者だった方にとっては負担の大きくなる制度です。
なお、気になる「免税事業者のインボイス登録率」ですが、中小企業庁の行ったアンケートによると35%程度の免税事業者がインボイス登録をしたとされています。
免税事業者にも関係があるの?
免税事業者がインボイス登録をせずにそのままでいた場合、必要なのは所得税の確定申告だけで、消費税とは関わらずに済みます。
ただ、実際問題として仕事の都合でインボイスへの登録をお願いされる機会は、今後も確実に増えるでしょう。
また2023年7月末時点で、インボイス制度に関連して独占禁止法違反につながる恐れがあるとして公正取引委員会が注意した事例も18件ありました。
そのほとんどが、取引先から一方的に取引価格の引き下げを通告されたケースで、このような事例も増えるかもしれません。
つまり免税事業者に影響があるのは、取引上のハンデなど税金とは別の問題となりそうです。
所得税と違う申告・納税期限
毎年所得税の確定申告をしている方であれば、課税期間の翌年3月15日という申告期限はご存知でしょう。
それに対し消費税の確定申告期限は課税期間の翌年3月31日となっており、所得税のそれより後になっています。
なぜ消費税の申告期限は後になっているか考えてみると、消費税の損金計上時期が関係していることが分かります。
一般的に計算した納付すべき消費税は、未払金として所得税の必要経費に算入しますが、これは認められてはいても原則ではありません。
「納付すべき消費税等の額および還付を受ける消費税等の額の計上時期は、原則として次のとおりです。
(1) 申告に係るもの
その申告書が提出された日の属する年または事業年度
なお、個人事業者が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額を未払金または未収入金に計上した場合には、その計上した年の必要経費または総収入金額に算入することができます。」
引用:国税庁タックスアンサー
つまり消費税の申告期限が所得税の申告期限より遅いのは、国税当局による配慮だといえます。まあ、納得できないでしょうが・・・。
2割特例の計算方法
今まで消費税の納税義務がなかった免税事業者がインボイス登録をした場合の負担軽減措置として、消費税の納付税額を売上に係る消費税額の2割とすることができる特例(2割特例)が選択できます。
正確にいうなら「仕入税額控除の金額を、特別控除税額(80%)にできる」ものですが、結果としては同じことです。
※ 納付税額 = 売上に係る消費税額 - 特別控除税額(売上に係る消費税額の80%)
2割特例の適用期間は、令和5年10月1日~令和8年9月30日を含む課税期間なので、個人事業主の場合、令和8年分の消費税まで適用されます。
この特例は、あくまでインボイス制度によってやむなく課税事業者になった方の負担軽減措置です。
つまり基準期間に課税売上高が1,000万円超だった場合は、この適用が受けられない点に注意が必要です。
例えば令和5年10月1日にインボイス登録をした免税事業者が、令和6年になって売上が急増し1,000万円を超えた場合、令和8年分の消費税確定申告では2割特例を適用できません。
また、高額な固定資産を購入した場合に2割特例を受けられないケースもあるので、気になる方は税理士にご相談ください。
特例期間のうちに考えなければならないこと
免税事業者がインボイス登録をした場合には、先ほどの2割特例が令和8年分の申告まで適用されますが、その先のことも考えなければなりません。
つまり令和9年分以降の消費税のことですが、消費税の計算方法には「本則課税」と「簡易課税」の2種類が選択できます。
本則課税とは、以下の計算式のとおり受取った消費税額と支払った消費税額の差額を納付する方法です。
※納付税額 = 売上に係る消費税額 - 仕入等に係る消費税額
これに対し簡易課税は、受取った消費税額に一定の割合(みなし仕入率)を乗じて計算します。
みなし仕入率は、事業の種類によって以下のように異なりますが、一般的な個人事業主の場合は簡易課税の方が納付税額は少なくなるでしょう。
簡易課税制度の事業区分の表
事業区分 | みなし 仕入率 |
該当する事業 |
第1種事業 | 90% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業) |
第2種事業 | 80% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) |
第3種事業 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 |
第4種事業 | 60% | 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。 |
第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除きます。 |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
場合によってはインボイス登録の取り消しも
免税事業者でありながら、必要性を感じてインボイス登録をした事業者でも、後になって「やっぱり止めておけば良かった」と思う方もいるはずです。
そう感じて事業への影響もないのであれば、インボイス発行事業者の登録を取り消すことも検討しましょう。
「消費税課税事業者選択届出書」を提出せずに、インボイス発行事業者の登録をした場合で、その登録が令和5年中に登録を受けている方は、登録をやめようとする課税期間の初日のから起算して15日前の日までに「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を納税地の所轄税務署長に提出することが必要です。
つまり今から一番近いケースでは、令和7年分から取り消す場合、令和6年12月17日までに提出します。
注意が必要なのは「令和5年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後に登録を受けている場合」、つまり令和6年1月1日以降の登録だったケースです。
インボイスの登録を取り消せても、登録日から2年を経過する日の属する課税期間の末日までは課税事業者となり納税義務は免除されません。
これは「2年縛り」といわれているもので、詳しいことは税理士に相談することをオススメします。
まとめ
インボイス制度が始まって最初の確定申告が終わりましたが、所得税も消費税も申告件数が相当増えたと言われています。
これからインボイス登録をする場合、消費税の納税義務の2年縛りなど注意点も多いので、迷っている場合は専門家へ相談してから考えるべきです。
インボイスという言葉ばかり注目されますが、話は消費税の問題なので、所得税の確定申告と併せて、税理士などに相談し無駄な納税を避けるようにしましょう。
税理士法人サム・ライズ
代表税理士。
大原簿記学校法人税税法課専任講師を得て平成5年12月税理士試験合格、平成8年1月林税理士事務所を開業、平成16年12月税理士法人サム・ライズを設立。
税理士法人サム・ライズは、税理士顧問・創業支援・相続税・資金調達・無申告・税務調査立ち合い・クラウド会計・社会福祉法人など数多くのサービスで中小企業の皆様をサポートいたします。
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